hanaremon’s blog

小説や詩のブログ

君へ 4

 

「もう、止めてくれ」

出来るだけ優しい言い方をしたつもりだけど

内容は優しくないかな・・

「別れるんだろ・・罪滅ぼしのつもりならもう十分だよ

 美味しかった、ありがとう」

下を向いていた「妻で無くなる女」が僕の顔を見上げた

不思議そうな顔で・・・

「えっと・・貴方から頼まれたから作ってたんだけど・・・」

「は?・・僕はそんな事頼んでないだろ?そんな事言った覚えはないけど・・・」

「ううん・・・メモがあったの、キッチンのコンロの所に貼ってあった

 それに、お弁当のメニューも毎日・・」

そう言って見せられたメモには

”別れる前に君の手作り弁当が食べたい、頼めるかな?” とある

”明日は・・・・・をお願い”と細かく書いてある

「え?・・これは僕じゃない・・僕の字じゃないだろ?」

「妻で無くなる女」の顔を見たが、困った顔だ

僕の字なんて覚えてないんだろう

この字は・・僕の字に似せて書いてはいるが多分上の娘だろう

子供のころからの字の癖がまだ残っている

娘は、成人式の頃から僕の事を「あの人」「おやじ」ではなく

「お父さん」と呼び始め普通に話しかけてきている

その謎は解明されていないが「離婚」の話を聞かされて

別れてほしくないと思ってこんな事を企んだのかもしれない

「これ、多分上の娘だと思う」と言うと

「あの子、最近変わったから・・・とにかく、お弁当はもう止めるわ」

「ああ、そうしてくれ・・でも本当に美味しかったよ」

そう言って部屋に向かうと、部屋の前に娘2人が待っていた。

 

「・・どうした?」

「お父さん達、離婚するの?」

「お母さんから聞いたのか・・ああ、そうだよ」

「お母さんの料理を食べても何とも思わなかったの?やっぱりもうダメなの?

 一緒に暮らせないの?」

やはり、娘たちの企みか・・腹は立たなかったがこの言い方はおかしい

どうも僕の方が悪者になっているようだ

「なんて聞いているのか分らないが離婚を言い出したのはお母さんの方だ」

好きな人が出来たと言うのは話していないかもしれないと思い言えなかった

2人とも、驚いた顔をしていた・・

「・・そう・・なの?」

なんと聞かされていたんだ?

「家庭内別居にはなっているが、お父さんはお前たちが結婚するまではこのままだろう   

 と思っていたんだ・・でもお母さんは違ったみたいだな」

2人とも顔を見合わせて黙ってしまった

「まぁ、お前達の企みのおかげで久しぶりに美味しい昼ご飯を食べられて良かったよ

 心配かけたな悪かった・・ありがとう」

そう言って、娘達の横を通って部屋の扉を開けた。