貴方へ XXIV (24)
それから1週間・・お店はお休みだった
新しい店長として副店長だった○○が選ばれ、お店は再起動した
騒ぎを知っているお客さんは殆どなく、お店のリニューアルもして広告も出したので
その為の休業だったのだと思ってくれた。
拓斗はまだまだ入院中だ。
打撲とはいえ酷い痣もあちこちに出来ているし、動くのも大変そうだ。
私は仕事の帰りに買い物をしてお弁当を作り病院へ足を運ぶ毎日。
病気ではないので食事制限はないけど、余り動けない状態なのに病院の食事では足りないと駄々をこねた
なのでボリュームは満点だがヘルシーなお弁当を作って運んだ。
太ってしまっては今着ている服が入らなくなってしまう。
カッコいい拓斗から一気に中年太りの拓斗おじさんに代わってしまっては嫌だ。
ここは主婦歴の長い私の腕の見せ所だった。
「拓斗~具合どお?」
拓斗の病室は個室だから周りを気にする事は無い
「う~~ん・・まだ痛い~~~」
「名誉の負傷さん・・今日もお弁当作って来たよ」
「それが楽しみで我慢できるんだよね~~」
「そう言ってくれると嬉しいけど・・・太らないでよ~www」
「沙代里のお弁当はヘルシーだから大丈夫だよ」
そう言いながらすでにお弁当を食べ始める拓斗に水筒のお茶を出した
病院食はすでに食べ終わっているはずなのに食欲がありすぎだ。
すると、ノックする音がした
振り向くとすでにドアは開けられ若い女性が立っていた
拓斗の手が止まって不機嫌そうな顔になった
女性はピンクの丈の短いワンピースに高いヒールを吐いて
何やらたくさんの荷物をもって拓斗に駆け寄って来た
「も~心配したんだから~~今日から私が泊まり込みでお世話できるからね」
彼女には私は見えない様で、拓斗にべらべら話し出した。
拓斗から大きなため息が出て、お弁当を大事そうに私に渡した
その時初めて私に気が付いた彼女が悲鳴を上げマジマジ見て来た
「誰?このおばさん」
ん?おばさん?
「ここをどうして知った?誰にも話していないんだけど・・」
「私には何でも分かっちゃうのよ~貴方の事なら!」
「どうせ、黒子にでも調べさせたんだろ?自分では何もしないもんな、君は・・」
「そんな事、当たり前でしょ?私は何もしなくていい人間だもの~うふふ」
どうやら、この子が「いいなづけ」とやら何だろう
拓斗が私を傍に呼んで彼女に言い切った
「僕はこの人と結婚するんだよ・・君はもう来ないでくれるかな?」
「え~~~?こんなおばさんと?正気?」
何なのよ・・この言い方
「僕が愛しているのはこの人だけだよ。君には用はない!帰ってくれ!」
「は~~~?貴方どうかしてるわ!私みたいに可愛い子が結婚してあげるって言ってるのに・・生まれてくる子供の顔を想像してみなさいよ!こんな女と結婚なんて理解できないわよ!・・お父様が決めた事なのよ!逆らえるわけないじゃない!」
「僕はもうあの家とは縁を切るんだ・・僕と結婚しても贅沢な生活は出来ないよ
それでもいいかい?」
「は?・・嘘?・・なんなのよ!」
彼女はそう言ってヒールの音をカンカン響かせながら走って帰って行った。
私はお弁当を拓斗に渡し、扉を閉めて何事も無かった様にベットの横のソファに座った
拓斗も何事も無かった様にお弁当をほおばっている
「沙代里・・このポテトサラダ美味しい~ちょっと酸味があって玉ねぎまで入ってて・・・」
「拓斗の好みは把握済みで~す」
その時は笑いあって過ごした
まさかあんなことになるなんて思いもせずに・・・。