hanaremon’s blog

小説や詩のブログ

「誓い」

 

南向きで陽当たりの良い寝室

 

部屋いっぱいに広げられた工具箱や部品

 

ベットの上に小さなテーブルを持ってきて

 

一心にラジコンカーを組み立てている彼の

 

その姿はまるで少年の様に私の目には映る

 

出会った頃とは見違えるほど痩せた体で

 

無邪気な笑顔を私に見せてくれる

 

辛かった事は何もなかったかのように・・

 

仕事仕事でろくに休みも無かった日々が

 

懐かしくなるくらいの長い長い休日

 

手掛けていた仕事が頭から離れず

 

1人だけが取り残されていく焦りに苛立ち

 

自分が居なくても誰も困る事など無いのだと

 

寒気が走る程の寂しさに襲われ

 

意固地になり自己嫌悪に陥って

 

何も出来ない今の自分に腹を立て

 

周りの人間に当たり散らしもした

 

生きがいを失くしてしまったと泣いた日もある

 

病室の窓から空を眺めている彼が

 

「何の為に生きて来たのか・・」と呟いた

 

何時この窓から飛んで行ってしまうのか

 

何時心の糸が切れてしまうのか・・・私は怖かった

 

沢山の長い時間が彼から希望を奪い、病魔を退散させた

 

家に帰った彼は何かを探し始めた

 

彼の心の目がゆっくりと開き始めたのだ

 

ぼんやりと感じ始めた幸福な時間

 

彼のこの笑顔をもう失くしたくない

 

静かに流れるこの時間が何よりも愛おしい

 

そして今この想いに私は誓う

 

ー 人には色んな時期があっていい

  神が与えてくれた道なら、急いでもゆっくりでも

  必ず決められた場所に辿り着くはず

  私は彼と一緒にその道を歩いて行こう

  まっすぐに伸びる大きな道でなくても

  目を逸らさず胸を張って歩いて行こう ー