「誓い」
南向きで陽当たりの良い寝室
部屋いっぱいに広げられた工具箱や部品
ベットの上に小さなテーブルを持ってきて
一心にラジコンカーを組み立てている彼の
その姿はまるで少年の様に私の目には映る
出会った頃とは見違えるほど痩せた体で
無邪気な笑顔を私に見せてくれる
辛かった事は何もなかったかのように・・
仕事仕事でろくに休みも無かった日々が
懐かしくなるくらいの長い長い休日
手掛けていた仕事が頭から離れず
1人だけが取り残されていく焦りに苛立ち
自分が居なくても誰も困る事など無いのだと
寒気が走る程の寂しさに襲われ
意固地になり自己嫌悪に陥って
何も出来ない今の自分に腹を立て
周りの人間に当たり散らしもした
生きがいを失くしてしまったと泣いた日もある
病室の窓から空を眺めている彼が
「何の為に生きて来たのか・・」と呟いた
何時この窓から飛んで行ってしまうのか
何時心の糸が切れてしまうのか・・・私は怖かった
沢山の長い時間が彼から希望を奪い、病魔を退散させた
家に帰った彼は何かを探し始めた
彼の心の目がゆっくりと開き始めたのだ
ぼんやりと感じ始めた幸福な時間
彼のこの笑顔をもう失くしたくない
静かに流れるこの時間が何よりも愛おしい
そして今この想いに私は誓う
ー 人には色んな時期があっていい
神が与えてくれた道なら、急いでもゆっくりでも
必ず決められた場所に辿り着くはず
私は彼と一緒にその道を歩いて行こう
まっすぐに伸びる大きな道でなくても
目を逸らさず胸を張って歩いて行こう ー