君へ 23
金曜の有給までの間は本当に忙しかった
仕事もそうだが部屋の掃除や家具の配置や必要な物をリストにしたり・・。
秘書の彼女が気を利かせてそこも手伝ってくれようとしたが申し訳なく思い
「大丈夫だよ・・金曜からはお願いするが今は仕事の事を頼む」と頼んだ。
俺としては金曜と土曜で引っ越しや買物を済ませ「離婚届」も提出し
日曜は彼女とゆっくり過ごそうと計画していた。
しかし、彼女は手を出せない事に不安を感じていたらしい。
木曜の朝の「挨拶」には笑顔が見られなかった。
どうしたのかと思ったが金曜からの有給に間に合わせたくて、ちょっと必死だったせいで、気を配ってあげられなかった。
そして、木曜の夕方になって仕事先からの帰りのハイヤーで彼女がいいだした。
「あの・・明日も私はお伺いしない方が良いのでしょうか?」と・・・。
ビックリして「どうして?」と素になって聞いてしまった。
「必要が無いのであれば・・私は・・・」
泣きそうな声になる彼女が、可愛くて微笑んでしまった。
「何がおかしいのですか?・・やはり私だけが有頂天になって居ただけなんですね」
そう言う彼女の手を握った・・自分でもちょっと驚いたがとても自然だった。
「明日からの有給を有意義に過ごすために、仕事や野暮用を急いで片付けたくてちょっと必死だったんだ。
君に手伝って貰わなかったのは、個人的な事まで仕事の時間を使わせるのが申し訳ないと思ってしまったからなんだ・・。
君の気持ちに気が付けなくてごめん・・・明日からの3日間は僕にとって君との時間だと思っているんだ・・バタバタだけど、よろしくお願いします」
彼女は俺の手をギュッと握り返して言った。
「私こそ、余計な事を考えてしまって・・・ごめんなさい」
「明日は朝から忙しいよ」
「はい!」
会社に着くまでにハイヤーの中で明日からの打ち合わせをした。
初日の朝は俺が彼女の家まで迎えに行くと言ったが断わられた。
寄り道をしたい所があると言う事だったが、少し寂しい思いだった。
彼女を隣に乗せて、新しい場所に一緒に足を踏み入れたかったから・・。
妻と結婚する時もこんな事は考えなかった。
相手が変われば気持ちも変わる物だな~こんな事考えるようになったんだから
などと思いながら食事も早々に奴の家のソファで眠ってしまった。