君へ 22
奴が余計な事を言うから、その日1日中彼女の事が頭から離れずにいて
「お前、まだ二日酔いか?」
と言われてしまうくらいボーっとしていたらしい
少しの着替えと仕事の書類などは持ってきているから4~5日はここで過ごさせてもらう予定だが、出来るだけ早く引っ越しをしないといけない。
奴が用意してくれたマンションは同じフロアの少し大きめの部屋だ。
「俺には勿体ない。」と奴に言ったが彼女との事を考えると良かったのかもしれないとそう思える。
夕食は男2人で近くの定食屋で済ませた。さすがに吞めない。
月曜の朝になって出勤の時間になってもなんだか緊張してた。
奴と2人で玄関を出ると彼女が待っていた。
奴の顔がまたいたずらっ子の顔になってる・・またやってくれたな・・。
「おはようございます。お迎えに参りました、部長」
彼女はそう言って笑顔だった。
「あっ、おはよう・・いや・・・だけど・・」
「俺はいつも通り運転手が来てる・・でも、お前は車を置いて来てるだろ?」
「あれ?一緒に乗って行けるんだと思ってた」
「部長と社長が一緒の車で出勤なんて、ありえん」
「・・そっか・・」
「私達はハイヤーですけど、私は秘書なので構いませんよね」
「そうだな」
3人でマンションを出て、別々の車で会社に向かった。
ハイヤーの中で、朝の食事のお礼を言った。
彼女は照れながら言った
「私の出来る事なんてあれ位しかないので・・」
「いや、美味しくて社長と一緒に平らげちゃったよ・・」
「なら、良かった・・・」
その時、気になってた事を聞いてみた
「・・・そう言えば・・社長といつ連絡先を交換したの?」
「ああ・・それは、奥様達をお迎えに行ってくれって頼まれた時です。私のデスクに社長から電話がありまして・・事情を話してくださってその時に携帯番号を聞かれまして・・それからです」
「ふ~ん・・そっか・・」
「すいません、勝手に・・」
「いや、あいつに・・社長に言われちゃ仕方ないよな」
「・・仕方なく・・ではないです」
「え?」
「・・私でお役に立てるなら・・部長の力になれるならと思いました。」
また、胸が熱くなった
「なら・・引っ越しの時も手伝ってくれるかな?」
下を向いていた彼女が顔を上げ、俺を見つめて
「はい!喜んで」
「ありがとう・・今週有給取るつもりでいるから君も・・」
「はい」
会社に到着して車を降りた時、営業部の社員が居て冷やかされた
「あれ?一緒に出勤ですか~いいな~」
彼女が恥ずかしそうに下を向いた
「うらやましいだろ~・・美人と一緒の出勤だぞ~!お前には無理だな~」
「部長、ひどいな~・・俺だって!」
「俺だってだ~・・ははは」
彼女に嫌な思いだけはさせたく無かった
「車が故障して、急遽手配して迎えに来てもらったんだよ」
「なんだ、そうなんですか」
「なんだと思ったんだよ~ははは」
笑いながらエレベーターに乗った。
その日は私情で時間をとられた分、仕事が溜まっていててんてこ舞だった。
相談案件もいくつかあったので走り回った。
その間、彼女は仕事の調整や行先の手配など本当に良く動いてくれた。
優秀な人だ。
有給を取るのは週末の金曜になった。
土日と含めて3日あれば必要な物の買い物もできるだろう。
妻に電話して荷物の引き取りの時間を調節した。
大きな物は小さな引っ越し便を秘書である彼女が手配してくれた。
秘書と一緒に行くと言ったら、間があってから
「はい、わかりました」と返事が来た。
何となく、分かっているようだった。