hanaremon’s blog

小説や詩のブログ

君へ  20

奴のマンションに着いた

「あっ、何もつまみを買ってこなかったな・・」

「大丈夫だよ、頼んである」

頼んである?・・ちょっと引っかかった。

ドアを開けるとエプロン姿の彼女が居た・・どういうことだ?これは・・。

俺はすごく目を見開いて驚いた顔をした様で、彼女が噴出している

「どうだ、驚いただろ?」

「そりゃ驚くよ!・・これは、つまり、えっと・・お前と彼女が?」

「バカ!!・・お前の為に腕を振るってくれって頼んで用意して貰っていたんだよ

 変な詮索するな!彼女の気持ちは」

奴が何か言いかけた時、彼女が奴の口を手で塞いだ。

「社長!」

彼女が顔を真っ赤にしている

「もう言っちゃいなさい!」

「でも・・部長の気持ちもありますし・・」

鈍い俺でも察しは付いたが、俺が何か言える物でもない

「おい!今日は成功のお祝いだから3人で飲むが、今度は2人で飲めよ」

「勝手に決めるなよ」

彼女が照れ隠しに「さあ、料理は出来てますから飲み始めましょう」と言って

シャンパンクーラーからシャンパンを出した。

それを俺が受け取り開封しグラスに注いだ・・その一連の動きを彼女に見られている

「さすがに慣れていらっしゃいますね」

「ここで、良く飲んでいたからね」

「飲んでいた?・・過去形?」

「ここ何年間は楽しく飲める心境でも無かったから・・」

「じゃあ、そう言う事で・・・乾杯!」

一口飲んでから

「なんだよ、そう言う事でって・・ははは」

今日は本当に気分がいいお酒だ、彼女の料理も本当に美味しい

奴が彼女と何を話したのかわかる・・でも、俺はまだ離婚をしていない

キチンとしてからでないと、彼女への自分の気持ちも整理できない

一通り飲んで食べて喋って笑い疲れた頃、彼女がそろそろ帰ると言い出した

自分でタクシーを呼んだらしい

奴に急かされて一緒にタクシーに乗り彼女が家に入った事を確認してからそのまま

Uターンで奴のマンションに帰った。

奴は本当にそう言う事に良く気が付く・・見習わないとな~。

部屋に入ると奴はまだ飲み足りないとワインを開けていた。

「明日は土曜だ・・朝まで飲むって言っただろ?」

「俺たちも若く無いんだぞ~~」

「何言ってんだよ、気持ちはまだあの頃のままだ」

「気持ちはそうでも・・・」

「お前だってこれからだ、1度失敗したからってしっかりチャンスが残ってる」

奴もバツ1だ・・子供が出来なくて奥さんが悩んでノイローゼになった、それでもいいとしっかり奥さんを愛していたのに、奥さんは去って行ってしまった。

奴はそれからずっと一人だ。

「お前だって、まだまだだろ?」

「俺はいいんだ・・。」

奴はまだ奥さんを愛している・・痛いほど分かる。

「もう1本ワイン開けるぞ」

その夜は本当に朝まで飲んだ、昔の話しから今の会社の話まで笑いながら話した

本当に久しぶりの解放感だった。そして明るくなってきてから寝込んだ。

昼に目が覚めるとお味噌汁のいい匂いがした。

テーブルの上の物が綺麗に片付けられていて、メモがあった。

彼女だ・・午前中に来て食事を作っておいてくれたらしい。

「おはようございます。昨日、カギを返し忘れてしまったので寄りました。

きっと二日酔いでしょうから、おかゆとお味噌汁と私が漬けた漬物を用意しました

食べられる様なら食べてください。夕べは楽しかったです。ありがとうございました

カギは玄関のポストに入れておきます。」

俺はその時、彼女を誰にも渡したくないと思ってしまった。