君へ 10
僕の職場での立場は「営業部」の部長だ
普通に営業もするが、1日の半分は相談事を引き受けている
いわゆる会社での裏の顔は「コンプライアンス部」の部長でもある
会社の社長とは幼馴染みで、表立ってコンプライアンス部を立ち上げると
相談に来た社員達が大人げない苛めにあう事が多くなっていると言う事で
この会社では営業部の部長である僕が「何かあったら聞き役になるよ」と言う感じになって居る。
ランチで聞いた話を解決した後に親友である社長に報告しているが、
今回の件は苛めになってはいるが、色恋沙汰なので最初から社長に相談した
ノートを見せながら意見を待った
「この女性に恋人が出来れば解決なんじゃないか?」
「おいおい、簡単に言ってくれるな~」
「好きな人が居るんだろ?」
「そうは言っていたが、周りの目を気にして気持ちを打ち明けられずにいるんだ」
社長がニヤッと笑った
「・・え?・・応援しろとでも言うのか?仕事の範囲を超えてるぞ」
「いいじゃないか・・・取り敢えず好きな人の名前、聞いて来いよ」
「お前~・・・ん?何か企んでるな」
「俺が・・社長が仕事の範囲を超えていいって言ってるんだ言うこと聞けよ」
仕方なく、相談者である女性社員にメールをして仕事帰りに会う事になった
彼女は近くの駅から自宅まで1時間かかるそうなので、家まで送ると言う体で
会社から少し離れた本屋で落ち合って僕の車で送りながら話を聞く事にした
傍から見たら怪しい2人だ
「悪いね・・こんな形で話を聞く事になって・・・」
「いえ、こちらこそ時間を取らせてしまってすいません」
「所で・・・・」
そう切り出した途端、彼女が突然泣き出した
「どうした・・・何かあった?」
「いえ・・・大丈夫です・・話って・・」
「今日の昼に話した時、好きな人が会社にいるって言ってたよね?」
「・・はい・・」
「その人に思い切って告白してみたらどうだろうと思って・・」
彼女がびっくりして僕を見ている・・当たり前だ
「こんな解決方法はどうかとも思ってはいるんだけど・・君に恋人が出来れば
その悩みは一気に解決出来るんじゃないかと思ってね」
「え?」
「彼女には好きな人がいた、恋人がいたとなれば食事を断ったのも当たり前だし
女性社員がやっかむ事も減るんじゃないかと思ったんだよ」
「そう・・でしょうか?」
「すごく強引な意見だとは思うんだが・・・他に思いつかなくてね」
「・・でも、その人はとっても年上で結婚されてて・・」
「え?そうなの?・・・それは困ったな」
ほら・・上手くいかない・・あいつの企みなんてこんなもんだ
「告白は出来ます・・でも、相手にされないと思うんです・・だから・・」
それはそうだ・・・結婚していて告白を受けるとなると「不倫」だ
それを応援するわけにはいかない
しかし、あいつに相手の名前を言わない訳にもいかない
「その人の名前とか・・聞いてもいいかな?」
あ~~~聞きずらい
彼女はしばらく黙って下を向いてた
「いや・・言わなくていいよ・・悪かった」
あいつには年上で結婚している人だと言っておけばいいんだから・・
「・・いえ・・言いたくないんじゃなくて・・・」
ん?
「好きな人が・・・目の前にいるので・・・」
ん?
「・・目の前?」
「はい・・私が好きなのは部長なんです
さっき泣いてしまったのは部長の隣で胸がいっぱいになってしまったから・・」
頭の中に真っ白いはてなマークが飛び交った
「ごめんなさい・・・相手にしなくていいんです・・分ってましたから・・」
彼女はすごく遠慮がちに言った
しばらく言葉が出てこなかったが、ずっと黙っているのは彼女に悪いと思った
「思ってもいない事だったから、黙ってしまって申し訳ない」
「いえ・・当然です」
「なんて言えばいいか・・」
「いいんです・・・大丈夫です」
「いや・・」
ふと思った・・あいつ、もしかしてこの事知ってたのか?と・・
だから「仕事の範囲を超えてもいい」なんて焚きつけたのか?
僕の今の状況を知っているからと言ってこれは問題だ!