hanaremon’s blog

小説や詩のブログ

君へ 6

 

人の記憶はあやふやな物だ

良い事は忘れるのに、悪い事はいつになったら忘れられるのだろう

歩きながらつくづく思った

自分の中の家族の思い出は「家庭内別居」が始まってからの物ばかりだ

娘達が小さかった頃の思い出までも打ち消されている

希望が見えた気がしたのも気の性だったのだろう

娘の変化は確実に見て取れたが、そんな事はもういい

重い荷物を急に降ろす事になって戸惑いはあるが心は軽い

さて、今の家で一人暮らしでは広すぎるのではないか?

売って、マンションにでも引っ越そうか?

少し広めのワンルームでもいい

そんな事を考えながら歩いているとお目当ての居酒屋に到着した

暖簾をくぐって入ってみると昔より小奇麗になっている

初老の大将も見当たらない

その代わり元気のいい自分より若い男性と女性に

「いらっしゃい」と声をかけられた

取り敢えずカウンターに座りメニューを眺めると

昔と変わらないものばかりだ

取り敢えず日本酒の熱燗と刺身の盛り合わせを頼み様子を伺った

少し落ち着いたところでカウンターの中の男性に聞いてみた

「久しぶりに寄ってみたんですけど大将は?」

すると男性が手を止めて「父は亡くなったんですよ・・2年前に」

驚いていると「この店は父の形見みたいなものだから勝手に継いでるんです」

そう笑顔で話してくれた

僕は元気だった頃の大将しか知らない

カウンターの中の男性は「いつもあそこで僕たちの働きっぷりを見てますよ」

そう言って目線をやった先には働いている姿で笑っている大将がいた

奥の壁に貼られた大将とお客さん達の沢山の写真

男性にもう1つぐい吞みを頼んで自分の熱燗を注ぎ

「大将に・・・」と言うと

「ありがとうございます。きっと喜んでますよ」と笑顔だった

どんな亡くなり方をしたかは聞かなかったが、大将は今でも幸せなのだろう

僕は亡くなる時、亡くなった後・・・周りからどんな風に思われるのだろう

大将の様に大切に思われていたい、そう思った

お店の終わりは昔と同じ0時ジャスト

ほろ酔い気分で空を仰ぎながらゆっくりと家路についた