hanaremon’s blog

小説や詩のブログ

君へ  24

その日の朝は、お味噌汁のいい香りで目が覚めた

寝返りを打つと、目の前に彼女の顔があった。

俺の顔を覗き込んでいる彼女の笑顔

まだ夢の中なのかと思ってしまうほど幸せな気持ちになった

大きく息を吸うと、玉子焼きの香りもした

ああ、そうか・・迎えを断った理由はこれなのかと解ったら昨日の寂しい気持ちが

一瞬で消え去った。

「おはようございます」

「おはよう」

「朝ごはん、出来てますよ」

「うん・・いい匂い」

僕は彼女の手をとって抱き寄せた

「いきなり恋人同士になったな」

ソファの後ろで奴の声がして我に返った

彼女も慌てて離れた

「居たのか?」

「ここは俺の家だ、居るのは当たり前だろうが!」

彼女が顔を赤くして下を向きながら

「あの、朝ごはん3人分ありますから・・・」と言った

内心、なんだ3人でか・・と心の中で舌打ちを打ってしまった。

でも、奴が言う通り急に「恋人」の空気になっている・・それが不思議な気がする

俺って軽い男になっているのかな?ちょっと心配になって奴に聞いてみた

「急だよな・・・恋人っぽくなったのって・・」

「ああ」

奴はにやにやしながら食卓に着いた

彼女が御飯とお味噌汁をトレーで運んできた

御飯の盛りもお味噌汁の量も俺と奴では違う・・彼女はそれも把握している、さすがだ

食事が済むと奴は

「悪いが俺は仕事が残っているから会社に行ってくる」と言って

スーツに着替えて出かけて行った。

食事の片付けを済ませると

彼女から「始めますか?」と声を掛けて来た

「ああ、始めよう」俺も彼女が用意したエプロンをかけた。

 

隣の部屋の鍵をカバンから取り出し、部屋を出た

彼女は俺の後ろに立っていたが、振り返り手を取って差し込んだカギを2人で回した

その時の彼女の笑顔が嬉しくてくすぐったかった。

それからは、部屋の掃除、彼女の引っ越し荷物の運び入れ、足りない家具の調達

2人の食器や身の回りの品々の買い出し・・・忙しくて楽しい3日間だった。

その間、疲れてダブルベットで寝てはいても2人とも熟睡

こればっかりは望んでいたとしても無理な物は無理だ

手を繋いで眠るのが精いっぱいだった。

夜中に彼女の寝言で目を覚ます事もあった

他の誰かの名前を口走るかも・・なんて思いも頭をよぎったが

呼ばれたのは俺の名前だけだった。

安心してまた眠りについた。

朝は彼女の手作り朝ごはんだ

良く早起き出来るな~と感心してしまう

これは彼女ならではなのか、女だからなのか?

元妻も最初の頃は作っていてくれた・・幸せな時間もあったな~と思い出した。

これは「男の幸せ」その物だと実感する

でも、それは愛情があっての事だ・・相手に喜んでもらいたい

相手の笑顔が見たい、2人でいて幸せだと思いたい

この感覚を思い出せて良かったと思った。

しかし、今この幸せな時間が一生続く物でもないとも知っている

だから余計に、この時間を愛おしいと思う、大切に過ごそうと思う

写真や動画、日記やブログで事実を記録して置こうと思った。

今までこんな事を思った事は無かった

歳をとった証拠だろうか?2度目の結婚だからだろうか?

1度目の失敗を繰り返したくない

彼女を大切にしよう、聞きたい事、言いたい事はちゃんと言おうとも思った。

そうすれば、彼女も同じ様に俺に聞きたい事も、言いたい事も話すだろう。

自分が死ぬ時、彼女と過ごせて幸せだったと思う様な夫婦生活を送ろう。

辛い時間もあったが、ここに辿り着くための時間でもあったのだから

良しとしよう。

さあ、今日からは普通の幸せな生活が始まる。