君へ 21
彼女のメモから優しさが伝わって来て、胸が熱くなってしまった。
奴はまだ起きてこないが親しいとはいえ寝室まで覗くのは良くない
俺はソファで寝たからお味噌汁の匂いで目が覚めたが奴はそうじゃないから自分で起きるまでは寝かせておいた方がいいだろう。
起きるまで待つか?・・いやしかし、二日酔いにはお味噌汁が飲みたい。
我慢できなくなって、お鍋の蓋を開けるとシジミが入ったお味噌汁が用意されていた
嬉しい心使いだ・・土鍋におかゆ、それに冷蔵庫を開けると梅干しと昆布、胡瓜と大根の漬物がある。
本当に彼女は気が付く女性だ、それに料理上手だ。昨日の料理もお酒に合って本当に美味しかった。
俺はしっかりと胃袋を掴まれた様だ。
鍋を中火で火をかけ、急いで顔を洗いにいった・・帰ると奴が味噌汁の鍋を覗いていた
「これ、お前が作ったのか?」
そう言う奴に、彼女からのメモを手渡した。
「お~~~さすがだな~」
「顔洗って来いよ・・食器、勝手に出すぞ」
「頼む」
男2人の二日酔いの朝に有難いご馳走だ。
「二日酔いの胃に染みるな~」
2人してそう言いながら平らげてしまった。
気が付くと携帯に妻からメールが入っていた。
「パートを見つけて働く、娘達もバイトを始める、生活費は半分でいい」と言って来た
奴にメールを見せると、それでいいのではないかと言う
「お前だってこれから彼女との事もあるしな・・」と付け加えた
「おい、まだ何もない内からそんな事を考えても・・そう言えば昨日彼女と何を話したんだよ」
「聞きたいか?」またいたずらする子供の顔だ。
「おちょくるなよ・・ちゃんと話せよ。仕事の事もあるし知らない方が遣りにくい」
奴は彼女を車に乗せると酒のつまみになる料理を頼みながらスーパーに寄った
その時に彼女から俺の好みを聞かれたそうだ、今だと思いストレートに聞いたらしい
「あいつの事、どう思ってる?」
彼女は、恥ずかしそうにでもはっきりと「好きです」と言ったそうだ。
離婚すると聞いて、抑えていた気持ちが溢れて来て自分でも驚いていると。
「彼女の方がお前よりずっと素直で正直だ」
そう言われて、黙ってしまった俺をじっと見る奴につい口走ってしまった。
「そうだよ、俺なんかには勿体ないくらい可愛い人だ。」
「ん?」
「他の男と幸せになってほしいって昨日まで思ってたのに・・・どうしたら良いんだ?
俺、月曜からどんな顔して会えばいいんだ?」
「急だな~・・胃袋掴まれたな?」
「それもあるが・・今朝のメモ読んだら・・」
「読んだら?」
「急に・・」
「急に?」
「誰にも渡したくないって思った」
「よし!!」
「なんだよ、よし!って・・」
「お前、なかなか認めないからじれったかったんだよ」
奴が真面目な顔して言った。
「でも俺・・本当に昨日までは・・」
「そう思い込もうとしてただけだろ?・・こっちは解ってたんだよ。
色恋沙汰が苦手なお前には俺みたいに背中をど~んと押してやる人間が居ないとダメなんだよ・・全く世話が焼ける」
「嘘つけ、楽しんでただけだろ?」
「まぁ、それもあるが・・ははは・・結婚してもたまには飲みに来いよ」
「気が早い」