貴方へ XXII (22)
「・・もしもし・・」
「沙代里さん?・・やっぱりか・・君たち知り合いだったんだね」
「・・店長?・・」
「おかしいと思ったんだよ~、どうしてあんなに早く彼の耳に入ったのか、
どうして彼があんなに怒ってたのかって・・」
「これ、彼の携帯ですよね?・・彼は一緒なんですか?彼に何かしたんですか?」
「何もしてないよ・・僕は。」
「僕は?」
「知り合いに頼んで、僕が味わった痛みを倍返しさせて貰っただけだよ」
「知り合い?‥彼に何を・・彼はどこですか?」
「君が迎えに来るというなら教えてあげてもいいよ」
「行きます・・・どこ?」
「お店だよ・・僕が痛い思いをした同じ場所」
私は、携帯を切ってマンションを飛び出した。
車まで走りながら考えた・・私だけが行けば店長の思う壺だ
必ず私に何かしようとするだろうし、拓斗にまた何かされる。
彼をこれ以上傷つけずに取り返すにはどうしたら良いのか・・。
走りながら、私に離婚する勇気をくれた友人に電話した。
確か旦那様は格闘技をやっているって言ってた
「もしもし、○○さん?・・ちょっと力を貸して欲しいの」
彼女は説明はあとでいいからと二つ返事で旦那さんを連れてお店まで来てくれるという
彼女の家はそんなに遠く無い・・私に時間稼ぎをしていて欲しいと言ってくれた。
私がお店の裏の「ごみ倉庫」の前に着くと、黒い車が3台も止まっていた・・。
怖い、でも助けなきゃ・・覚悟を決めて倉庫の扉をゆっくり開けた
そこには何人もの乱暴そうな人たちの前で頭から血を流している拓斗が倒れていた。
「拓斗!」
駆け寄るも意識が無いようだった。
「そう言う仲ですか?だからか・・彼はね私に向かって“”彼女に手を出すな、彼女に何かあったら容赦しない“” って言ったんですよ」
「嘘です・・彼はそんな風には言っていないと思います」
「あれ? 信じないんですか?・・普通そういう風に言われたって聞けば喜ぶもんでしょ?」
「彼は、自分だけの感情で動く人ではありません。確かに私達は知り合いです。でも私の事だけで店長に痛い思いをさせたのではないと思います。」
「いやいや、あの権幕は 俺の恋人に手を出すな!って感じでしょ?」
「店長は前からセクハラじみた事を皆にしてきたじゃないですか・・みんな仕事を失いたくないから目をつむってきましたけど‥本当は殴って遣りたいって言ってました。拓斗はそれを知ってます。」
店長は笑って言った
「お愛嬌でしょうが~セクハラなんて大げさな」
「なら、なぜこんな人達を呼んで拓斗をこんな目に合わすんですか?お愛嬌なら
1回殴られたからってこんな事までしませんよね?」
「結構、喋るんですね~沙代里さんは・・・もっと大人しい人だと思ってましたよ
彼氏ができると変わるんですかね~・・それに不倫でしょ?旦那さんに話してもいいんですよ」
「不倫ではありません・・もう離婚しました」
「あれ?そうなんだ・・」
「今日はそれを話そうと思っていたんです・・・それを・・」
「だったら尚更、慰めてあげられたのに・・・残念だな~」
「結構です。彼は連れて帰ります。」
しかし、男たちが私たちの周りを囲んだ
「あんた、いい度胸しているけど、直ぐに帰すわけにはいかないな~」
その時、拓斗の意識が戻った
「沙代里・・どうして・・」
「メールに返事が無かったから心配になって電話したら店長が出た」
拓斗は私の肩を借りながら立ち上がり
「店長、携帯返してくださいよ・・それが無いと仕事にならない」
「どうしようかな~・・」
「返せよ・・ここまですれば気が済んだだろ?」
「いや~1度くらい彼女を貸してくれれば考えてもいいけどね~」
その言葉で拓斗がまた店長に向かって行きそうになったが、また倒れてしまった。
その時、倉庫の扉が勢いよく開いた。
「そこまでだ。○○・・」
そう言って、友人の旦那さんであろう人が店長の胸ぐらを掴んだ。
男たちは一斉に外に逃げて行ったが、パトカーの警察官につかまっていた。
「沙代里~大丈夫?」
友人が駆け寄って来て一緒に拓斗を支えてくれた。
「・・ねえ、なんか凄い事になってるんだけど・・」
「へへ・・うちの旦那さん、元刑事で・・」
「え?・・そうだったの?」
「強面で刑事向けの顔なんだけど・・私と知り合って他の仕事についてくれたの
だから、今も同僚に電話したら○○組のチンピラがおかしな動きをしてるらしいって聞いてピンと来たらしいわ」
「それで・・」
「沙代里が私を頼ってくれて、なんか嬉しい・・詳しい話は近い内に聞かせて貰うわよ」
「うん、ありがとう」
拓斗と私は救急車で病院へ・・彼女と旦那様は事情聴取に警察へ
私達も明日には事情を聴かれるだろう。
とにかく、拓斗の身体が心配だった。
警察病院へ運ばれて、検査に時間がかかっていた。
看護師さんに「短くても4~5日は様子見で入院になると思います」
そう言われて、少しほっとした・・
腕や脚が動かなくなるとか、障害が残るとかは無さそうな反応だったから・・・。
ホッとしたからなのか、今日作った食事は冷蔵庫に仕舞ってこなかったな~とか
私の車、タクシー呼ばないと取りに行けないな~とか。そんな事をうっすら思いながら拓斗の検査の終わりを待っていた。