hanaremon’s blog

小説や詩のブログ

貴方へ  XX (20)

車に戻った拓斗は急いで車をだした。

嬉しそうな顔で私の手を自分の膝に持って行きずっと握って離さない

まるで学生の時のデートみたいだ。

しかし、途中で車を止めた

「どうしたの?」

「今から離婚届って出しに行けるのかな?」

「うん、確か今からでも夜間窓口があるから出せると思うよ」

「じゃぁ、出しに行こう!」

「うん。そうだね・・・1分でも早い方がいいね」

拓斗はそのまま役所に向かった。

夜間窓口には一人で向かった。

拓斗が一緒に行きたがったが、そうすると拓斗と離婚するみたいになるから一人で行ってくると断った。

「それもそうか・・」と、納得していた。

それに窓口でこっそり聞きたい事もあったから・・・。

係りの人に用紙を出す時「旦那様はお亡くなりになってますか?」と聞かれた

ああ、そうだ。私、喪服を着ていたのだった。

「いえ、知り合いのお式の帰りなんです」と答えながら小さい声で聞いた・・

どのくらい待てば再婚できるのかと・・。

100日経てば再婚できる・・携帯で調べた事が本当かどうか確かめたかった

確かにそうだった。

それを聞いてから車に戻ったら拓斗に聞かれた。

「何か不審がられてた?」と・・

「うん、旦那さんが亡くなったのか?って・・喪服来てるからね」

「亡くなったなら離婚しないで財産を貰うよね?」

「そうだね」

「離婚、おめでとうございます」

拓斗に言われて、初めてやり遂げた実感を感じて嬉しかった。

その後はまた手を膝に持っていかれて、繋いだままマンションに帰った。

拓斗は玄関に入るなり、何度もキスをしてくれた・・私の赤い口紅を拓斗の舌で舐める様に落としながら・・そしてキスをしながら少しずつ喪服を鵜がされていく・・抱きあいながら踊るようにベットに・・。

初めて不倫ではない甘い時間を過ごし、いつのまにか眠ってしまった。

 

次の日の朝は出勤日で、朝から急いでシャワーを浴び2人とも欠伸をしながら朝食を食べ支度をし、拓斗を玄関で見送ってから30分後に私も出勤した。

その日は打合せ通り「新人担当営業者とパートのおばさん」として会う事になる。

その前に、お店の人達の反応も気になるところだ・・。

私は、何事も無かった様に出勤した

「おはようございます・・あっ、店長、長い間お休みしてしまいすいませんでした」

そう言って頭を下げている間にも店長の同情のセリフが始まった。

「大変だったんだね、体調を壊すのも無理はないよ」

私は何も知らない振りで「えっと・・何かあったんですか?」と聞いた

「みんな知っているよ・・2日前、事件があって・・お昼にでもみんなと話すといいよ

 きっと色々と力になってくれるから・・」

泣きそうな顔で心配してくれている・・なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまった。

更衣室に入っても、パート仲間からの同情と慰めと励ましが引っ切り無しに飛んでくる

「ありがとう」と言うのが精いっぱいな感じになった。

予想以上の反応で戸惑ってしまったが、演技を続けなければいけない。

拓斗は開店前に顔を出すと言っていた・・・私大丈夫かな?拓斗と会った途端に満面の笑顔になってしまいそうだ。

いやいや・・しっかりしなければ。

いくら離婚が成立したとはいえ、まだまだ私達の事は秘密だ。

時間をかけて、つじつま合わせをしながら認めて貰わなければ・・。

隠すのって結構大変だな~とすでに思ってしまった。

それに、1週間も仕事に出ていないと少しだけ仕事の動作が遅くなっている気がする

少し焦った。

いつもの事だが、お店は開店前から扉の向こうにお客様が待っている。

開店したら10分でレジにお客様が並ぶ・・・。

そう言えば、事件の時にお店にいたお客様もいるだろう。

普通の顔で淡々と遣らなければ・・。

そう思っている隙に拓斗がやって来ていた。

お店の隅で店長に頭を下げているのが見えた、するとWさんが隣に来て彼が何者なのか説明してくれた。

「へ~、担当変ったんですね」

「結構イケメンでしょ?若い子がもう狙っているいのよ~うふふ」

そう言って自分のレジに戻って行った。

イケメン・・そのイケメンはもうすでに私の彼よ~と自慢したくなった。

そのイケメンと店長が私の所にやって来て担当になった挨拶と事件を起こしてしまった事で頭を下げに来た・・予定通りの行動。

つぎは私のセリフ

「まだ、何があったか何も聞いていなくて・・」

拓斗のセリフ

「店長、仕事に入って貰う前に説明したいのですが良いですか?」

「ああ、そうだよね・・分らないまま仕事するよりその方がいいね・・じゃあ

 事務所で・・・」

想像通りの返事

店長は開店時にはお店に居なくてはいけない・・私と拓斗は2人で事務所に向かった。

笑顔になりそうなのを必死に堪えた。

拓斗も同じ様で、後ろから見ると肩が震えているのが分かった。

事務所に入って扉を閉めた途端、拓斗がお腹を押さえた・・笑い声が出そうなのをこらえていた。

「みんなに同情されて笑うなんて申し訳ないわ」

「うん、そうだよね・・でも沙代里だって・・・」

2人してしゃがみ込んで笑いをこらえた。

皆を騙している事に笑えたのではない・・演技をし合う自分達に笑いが出たのだ。

「でも、これからもしばらくはこんな感じになるんだよね」

「そうなるね~でも、挨拶は済んだし今回の事件の事を説明した事になったら後は仕事と割り切るしかない・・それに、毎日は来られないから・・」

「そうなの?」

「来週から担当店舗が増えるらしいんだよ・・俺、仕事早いから・・えへへ」

「本当に仕事出来るのね・・ここでももう若い子が拓斗を狙っているんですってよ」

「あれ?妬いてる?・・・嬉しいな」

「バカ」

「俺は沙代里しか見えないよ・・今でも抱きしめたいくらいなんだから~」

「私だって・・」

その時、扉をノックする音が聞こえた

とっさに向かい合わせでパイプ椅子に座り神妙な顔を作った

「どうぞ」

拓斗が言うと店長が入って来た

「どう、話しできた?○○君」

「はい、だいたいの事は・・・」

「○○さん、びっくりしたでしょ?でも、彼が悪い訳じゃないから・・」

「ええ、分かります・・夫が悪いんですから・・私は大丈夫です」

「じゃあ、もう少ししたらでいいから戻ってくれる?お客さんが並んでて・・」

「はい分りました」

店長はそれだけ言うとお店に帰って行った

「拓斗はもう少しいられるの?」

「うん、お昼までは居る予定だよ・・店長とも話があるし・・」

「分かった・・じゃぁ、戻るね」

「うん、頑張ってね」

「拓斗も・・」

そういって、2人で事務所を出た。