hanaremon’s blog

小説や詩のブログ

君へ  14

「昨日の今日で驚いたな~」

そう言って振り向くと彼女が嬉しそうに笑った

「社長さんからの提案は私の為ですよね」

「分かるの?」

「昨日の今日ですから・・でも、本当に私でいいんでしょうか?」

「私で?・・君がいいんだよ」

自分でも驚くくらい素直な気持ちが口に出た

彼女がちょっと下を向いてほほを染めた

自分も少し照れてしまった

まるでお見合いをしているような気分だ

カフェでは向かい合うが何となく顔を見るのが恥ずかしい

どうしたと言うのだろう、こんな自分は初めてだ

こんな気持ちで仕事は大丈夫だろうか?と心配になったが

ポーカーフェイスで行くしかない

いつもの自分を思い出し気持ちを切り替えた

営業部に戻って営業部員に彼女を紹介した

男どもがざわついた。女性社員は微妙な表情だ

これか・・彼女の悩みの根源は・・・

色んな案件を解決してきたが、今回は根が深そうだ

僕の下に付けてもすぐには解決は難しいな

 

その日から、僕のスケジュール管理や雑用は彼女が一手に引き受けてくれた

本当に仕事ができる女性だ、社長が押すだけの事はある

男性社員はまだまだざわついているが、僕の傍にいつもいる彼女に

僕の目を盗んで誘う事は出来ない

女性社員は機嫌が悪い人もいるが、仕事の事で彼女に助言を求める人も出てきた

彼女はどの質問にも適切な回答をしている、さすがだ

彼女のおかげで仕事がスムーズに進む

そして、コンプライアンスの仕事の方は彼女の家に送りながら個人的に指導している

コンプライアンスの件は社長との約束で営業部員にも内密なのだ

そうして2週間がったた頃、僕だけ社長に呼ばれた

そう言えば、肝心な事を聞いていなかった事を思い出し社長室に向かった

ノックをすると「入れ」との声

「失礼します」と部屋に入ると珍しく神妙な顔でこちらを見る社長

「聞きたい事があるんだが・・」

「こっちもだ・・」

「まずこっちの質問に答えてくれ」

そう言って、僕の離婚の件を聞いてきた

妻が出て行った所までは話していたがそれ以上は報告していない

と言うより、進展が無いので話す内容が無かった

そう言えばあれから妻の彼氏から連絡が無い・・揉めているのだろうか

社長からは早く離婚を成立させろとせっつかれたが、人に言われるような事では無い

だが社長は必要以上に急がせようとする

「なんだよ。変な奴だな」

「お前、分ってるんだろ?彼女の気持ち・・それに自分の気持ちにも気が付いてるだろ?」

「・・なんの話だよ」

「俺に嘘は通用しないぞ」

そうだ、こいつは昔から人の心の中を読み取れる奴だった

だから、この会社が大きくなるのも早かったんだ

「彼女の気持ちは薄々は・・でも、俺は彼女にふさわしくないだろ?」

「ふさわしいかそうでないかは彼女が決める・・だけどお前がまだ結婚している間はどうにもならないだろ?・・だから早く離婚を成立させろって言ってんだ」

「・・なあ、お前はいつから彼女の気持ちに気が付いていたんだ?俺が相談を聞くころには気が付いていた感じだよな?なんでだ?」

「ははは・・・お前の話しはそれか?」

「ああ・・この間もそれでここに来たのに話が出来なかった」

「俺の黒子達の事は知ってるよな?‥掃除のおばさん達やビルの窓ふきの男性達・・」

「ああ・・・」

「その黒子達の報告の中で気になる話が合った・・それが彼女の事だった

たまに俺が会社内を清掃員の制服で散歩するのは知ってるよな、その時に苛めを目撃した・・そして、相談できる人間がいない事も分かった。だから清掃のおばちゃんに

○○部長が相談に乗ってくれるわよって耳打ちして貰った・・その時の彼女の反応を見ていたらピンときた。恋愛沙汰だからお前は絶対に俺に最初から相談に来ると思ったよ

こういうの苦手だからな~お前」

「そう言う事か・・お前社長なのに暇だよな」

「おいおい、出来る社長の間違いだろ?」

笑いあって話は終わった

「では失礼します」

社長室から廊下に出ると、秘書になった彼女が僕を待っていた

「どうした?急な用でも?」

「いえ、部長の傍にいないと不安なんです・・・勝手な行動をとりましてすいません」

「いいよ・・まだ解決はしていないからな・・一人にさせてすまん」

「いえ、子供みたいですいません」

そう言って笑顔を見せた彼女はあの中華屋で一緒にいた彼女だった