君へ 11
彼女の家までの時間はまだたっぷりある
ずっと黙って運転するのも息苦しい
どうしたものかと思案していると彼女が口を開いた
「部長・・今の私の気持ち、重く感じないでください。憧れのような物なので本気で付き合いたいとか大それた考えがある訳ではないんです・・・。ご家庭があるのは解ってましたし・・不倫とかしたい訳ではないし・・素敵な人だな~ってずっと思ってただけで・・・。」
そう言えば、彼女とはあまり話した事はないが控えめでそれでいて仕事は出来る方だ
他の女性社員とは少し違った雰囲気はある。いつも清楚な服で通勤するのは見ていた
綺麗にしているしモテるのも無理はない。
「あっ・・ありがとう。君みたいな綺麗な人に憧れてたなんて言われると照れるな。」
「綺麗だなんてそんな事ないです・・・悪くはないと思いますが・・」
自分で言って小さく噴出した彼女につられて俺もつい笑ってしまった。
「君は綺麗だよ・・モテるはずだ。性格もいいと思う・・きっといいご家庭で育ったんだろうね。ご両親も素敵な方たちなんだろうな~羨ましいよ」
「・・いえ・・私、施設で育ったんです。5歳の時に交通事故で両親とも亡くなってて
どちらの祖父母にも引き取って貰えなかったらしくて・・。
両親、駆け落ちだったみたいなんですよ・・だから・・
でも、楽しかったんですよ施設・・兄弟が大勢出来たみたいで賑やかで・・
私、のんびり屋なんですけど自分より下の子の面倒を見てるうちにおねえちゃん役
になってて・・勉強とかも見てあげないとと思ったら自分がしっかり勉強しなきゃ
って頑張って勉強もしてて、そのおかげで奨学金貰って大学まで行けたんです
施設は高校卒業したら出なくちゃいけないんで結果的には良かったんです。
ずっとバイトして生活してました。私がこんないい会社に入れたのは奇跡です」
そういって屈託なく笑う彼女がとっても素敵に見えた。
「あの・・すいません遠いのに送って頂いて・・本当はもっと近くに住みたいんですけど、会社周辺はお家賃が高くて・・・」
と言ってまた微笑んだ
その時、やっと気が付いた
「それじゃぁ、君は一人暮らし?」
「はいそうです・・会社で交通費が貰えるので助かってます」
ふと、気が向いて誘ってみた
「もしお腹が空いてたら・・と言うかもし良かったら食事に誘ってもいいかな?」
あっ、いけない・・これはセクハラか?
「・・・・」
ビックリしてるし・・まずった
「ごめん・・良くないよな、こう言うの・・」
「いえ・・お願いします!お腹ペコペコです!」
彼女の子供の様なその返事にホッとして顔を見合わせて笑ってしまった。
「この辺だと・・・」
「この先に中華屋さんがあります・・その先にはレストラン位しか・・」
「じゃぁ・・」
「中華でいいですか?私、今日そんなに持ち合わせが無くて・・」
「大丈夫だよ。僕がおごるよ」
「いけません。ちゃんと自分の分は払います」
その勢いに驚いたが、彼女の性格なのだろう
「では、中華で・・」
「はい」
ホッとした様子の彼女がなんだか可愛く見えた。