hanaremon’s blog

小説や詩のブログ

貴方へ  Ⅻ

ホテルに戻る前に役所に寄って「離婚届」を貰って来た

今まで重いイメージだった用紙だけど簡単に手に入るんだなって思った

それからホテルに帰って部屋に駆け込んで声を殺して泣いた

悔しい・・悔しくてたまらない

私は人間として扱われていないって感じてはいたけどこんな風に思われていたなんて

お義母さんが愛人の方をあんなに頼りにして楽しそうに笑っていた

同居していた時間、人生で一番無駄だったんだって思ったら涙が止まらなかった

泣き疲れて頭がボーとして窓から見える空を見ていた

携帯がなった・・彼からだった

電話には出たが泣きすぎて声が出せなかった

「どうしたの?・・何かあった?」

何も言わないだけで心配してくれる彼の気持ちが身に染みてまた泣けた

どうしても話が出来ない代わりにずっと泣いてた

「沙代里・・沙代里・・」名前を呼び続けてくれる拓斗が恋しかった

「部屋から出てこられる?」

「・・うっうっ・・う・・ん」

「ホテルの前に着くから・・出ておいで」

「え?」

「早く抱きしめたいからすぐに出ておいで」

「うん」

すぐに顔を洗って部屋から飛び出した

フロントにカードを預けて、ホテルの前に出たら彼が両手を広げてくれた

そのまま彼の胸に飛び込んでまた泣いてた

彼が私を抱きしめたまま言った

「愛してる」

私は頷く事しか出来なかったけど心の中が全部通じた気がした

彼が車に連れて行ってくれた

彼の車の隣に乗ったらホッとして落ち着いて呼吸が楽に出来る様になった

車は大きな駐車場の隅に止まった

「話せる?」やさしい声だ

「うん」そう言って深呼吸をした

そして、今日の出来事と行動を残さず話した

彼は目を閉じたまま黙っている・・・怒っているのが手に取るように分かった

「作戦変更だな」とゆっくり言った

「俺の沙代里にこんな思いをさせるなんて・・絶対に許さない」

「離婚届は貰って来てるから・・・」

「その前に遣りたい事がある」

彼が何を考えたのかはこの時は怖くて聞けなかった

それだけ、彼の怒りが大きい事が分かったから

私は、お金を貰ってきちゃったし離婚しか頭になかったけど

離婚の前に何をしようっていうのか・・・

「とにかく、心配で沙代里を1人にはしておけない・・俺のマンションに・・」

彼は言いかけて辞めた

「沙代里、ホテルに予約したのはあと何日?」

「あと3日だけど・・・」

「用意が出来るまでホテルで我慢してくれる?」

「うん・・大丈夫だけど・・」

「毎日連絡するよ・・毎日会いたいけどちょっと時間が無いかもしれない」

「分かった」

気持ちを分かってくれてるだけで私は心から安心できた

ただ彼が何をするつもりなのかが気になった。