hanaremon’s blog

小説や詩のブログ

君へ  12

彼女指定の中華屋は普通の街の中華屋さんと言う感じだ

彼女は時々来ているのだろうかマスターに会釈をした

お店の中はあまり広くはないがテーブルが少しずつずらして置いてあり

隣りを気にしなくていい様になっていた

開いている席は一番奥の隅だった

「良かった、この席好きなんです」と嬉しそうに振り返る

「常連さんなの?」

「いえ、つきに1度くらいなんですけど自分へのご褒美に来るんです」

しかし、ご褒美にしてはどれもお手頃と言うか・・安い

彼女はメニューを広げて僕の方に向けて渡そうとした

「私は決まってますから・・」と・・

メニューを手にしながら聞いてみた

「何にするの?」

天津飯です」

彼女がニコニコしながら言う物だから、これは美味しいんだろうと

「じゃぁ僕も同じものを・・」

彼女が手をあげて店員さんを呼び注文をしてくれた

「自炊が主ですけど、ココの天津飯の味だけは真似できなくて・・」

彼女の生活が垣間見える

天津飯が届くまでの時間は他愛ない会話が続いた

彼女が入社したての頃の同僚の話しとか、先輩に怒られた時の話しとか

休みの日に何をしているかとか・・

そんな話を聞きながら、僕は迷っていた

今の僕の生活を話してしまいたくなった

でもそんな事を今、彼女に話したらどうなるのだろう

「憧れ」と言ってくれた彼女を戸惑わせるだけだろう

現実問題、僕が彼女を好きになる事は無いはずだ

そんな事を考えながら彼女の話を聞いていると

天津飯が運ばれて来た

 

彼女が本当に子供の様に嬉しそうに

「いただきましょう・・・いただきます」と手を合わせて言った

「いただきます」僕も手を合わせた

ふと思った・・手をわせてい”ただきます”を言うのは久しぶりな気がした

いや、実際は言っている。言ってはいるが気持ちが違う

楽しい気持ちで手を合わせるのが久しぶりなんだろう・・

天津飯は彼女が言う通り他ではない味で美味しい

何が違うのか味わいながら食べたが解らない

その僕の様子を見て笑っている彼女

「美味しいですよね?・・でも、どう作ってもこの味を出せないんです」

「うん・・確かに上手い。・・なんだろう・・お店の人に聞いてみた?」

「え?・・そんな事聞いていいんですか?」

「もしかしたら簡単に教えてくれるかも・・」

「普通、教えてくれないんじゃ・・」

彼女の疑問をよそに手を挙げた

「すいません」

男性の店員さんが追加注文かと伝票をもってやって来たが、すかさず聞いてみた

「この天津飯て、どうしてこんなに美味しいんですか?隠し味とかあるんですか?」

「ああ・・それはウェイパーとケチャップが入ってる・・好みがあるけどうちでは

 ケチャップ多めだよ」

「ありがとう・・では餃子を2人前追加でお願いします」

「かしこまりました」

彼女を見ると、目をまん丸くして呆気に取られていた

僕はその顔をみて笑ってしまった

「ね?・・結構簡単に教えてくれるだろ?・・ただ、分量は詳しくは無理かな」

「は~~~・・ビックリしました。でもありがとうございます」

「後は、作ってみないとだね」

「はい」

彼女は嬉しそうにメモをしていた

「餃子が来るから、ゆっくり食べようね」

「でも・・部長の餃子ですよね」

「さすがに2人前は食べられないから手伝ってくれよ」

「では、遠慮なく」

私達は天津飯の話で盛り上がり、食べ終えて店を出た

「餃子、ご馳走様でした」

「いや、食べたかったからいいんだよ」

彼女のアパートはそこから車で15分ほどの古めの建物だった

こんなアパートで女性が1人暮らしなんて危ないのではないかと心配になった位だ

車から降りる時彼女が言った

「楽しかったです・・ありがとうございました。恋人を作る件はすぐには無理ですけど 頭に入れておきます。色々考えて頂きありがとうございました。おやすみなさい」

そう言って車が発進するまで見送ってくれた。