hanaremon’s blog

小説や詩のブログ

小説 君へ

君へ  25

楽しく忙しかった3日目の夜 初めて彼女に口づけをした 大人としては遅すぎるスキンシップだが、2人きりの時間を作れなかった俺が悪い 彼女は恋愛経験が少ないと言っていたのを思い出した 少ないだけで、ない訳ではない どんな男性と付き合って来たのだろう…

君へ  24

その日の朝は、お味噌汁のいい香りで目が覚めた 寝返りを打つと、目の前に彼女の顔があった。 俺の顔を覗き込んでいる彼女の笑顔 まだ夢の中なのかと思ってしまうほど幸せな気持ちになった 大きく息を吸うと、玉子焼きの香りもした ああ、そうか・・迎えを断…

君へ  23

金曜の有給までの間は本当に忙しかった 仕事もそうだが部屋の掃除や家具の配置や必要な物をリストにしたり・・。 秘書の彼女が気を利かせてそこも手伝ってくれようとしたが申し訳なく思い 「大丈夫だよ・・金曜からはお願いするが今は仕事の事を頼む」と頼ん…

君へ  22

奴が余計な事を言うから、その日1日中彼女の事が頭から離れずにいて 「お前、まだ二日酔いか?」 と言われてしまうくらいボーっとしていたらしい 少しの着替えと仕事の書類などは持ってきているから4~5日はここで過ごさせてもらう予定だが、出来るだけ早…

君へ  21

彼女のメモから優しさが伝わって来て、胸が熱くなってしまった。 奴はまだ起きてこないが親しいとはいえ寝室まで覗くのは良くない 俺はソファで寝たからお味噌汁の匂いで目が覚めたが奴はそうじゃないから自分で起きるまでは寝かせておいた方がいいだろう。 …

君へ  20

奴のマンションに着いた 「あっ、何もつまみを買ってこなかったな・・」 「大丈夫だよ、頼んである」 頼んである?・・ちょっと引っかかった。 ドアを開けるとエプロン姿の彼女が居た・・どういうことだ?これは・・。 俺はすごく目を見開いて驚いた顔をした…

君へ  19

奴が俺の自宅までの道のりでこれからの事を色々とアドバイスをくれた。 いつも奴は「命令」ではなく「提案」だ、後は自分で判断しろ‥と言う事だ。 俺は一緒に来て欲しいと頼んだんだが、断られた。 家庭の事までは入り込みたくないんだそうだが、すでにかな…

君へ   18

男性社員の号令で動き出した10分後 15人ほどの社員がまだ返して貰っていないと名乗りを上げた。 貸した金額も分かったので纏めて貰った。 男性社員の話しでは一人一人の金額は1万2万と少ないようなのでみんな諦めていたらしいとの事だった。 うちの社…

君へ  17

「起こした問題・・と言うのを少し詳しく聞いてみる。解ったらすぐに連絡する」 そう言われて仕事に戻った どうするつもりなんだろう・・奴の頭の中は平凡な俺なんかには理解不能だ。 営業部に帰ると秘書である彼女が駆け寄って来た。 小さいメモを見せて「…

君へ  16

その日、家に帰った俺は携帯を見つめていた 自分から掛ける事はもう無いと思っていたから少し勇気が必要だった あれから少し時間がたっているし、変に急かす様な感じにもしたくない しかし、このままでは落ち着かないのも正直な所だし、奴のセリフではないが…

君へ  15

一緒に営業部に戻った すると、彼女の元の部署の女性が待っていた その女性を見て、彼女は僕の後ろに隠れる様に1歩下がった 「何か?」 僕が言うと彼女をのぞき込んで「何であんたなのよ?」と言った 察しは付いた、この人が苛めのボスなんだと・・。 「僕…

君へ  14

「昨日の今日で驚いたな~」 そう言って振り向くと彼女が嬉しそうに笑った 「社長さんからの提案は私の為ですよね」 「分かるの?」 「昨日の今日ですから・・でも、本当に私でいいんでしょうか?」 「私で?・・君がいいんだよ」 自分でも驚くくらい素直な…

君へ  13

家に帰った僕は今日の事をぼんやりと思い出していた 久しぶりに楽しい食事だった 彼女の悩みが解決した訳ではないが、彼女のあの笑顔を見ていると 少しは気が楽にはなったのかなと思えた 僕の事が憧れだったのはきっとお父さんを知らないから年上の男性に惹…

君へ  12

彼女指定の中華屋は普通の街の中華屋さんと言う感じだ 彼女は時々来ているのだろうかマスターに会釈をした お店の中はあまり広くはないがテーブルが少しずつずらして置いてあり 隣りを気にしなくていい様になっていた 開いている席は一番奥の隅だった 「良か…

君へ  11

彼女の家までの時間はまだたっぷりある ずっと黙って運転するのも息苦しい どうしたものかと思案していると彼女が口を開いた 「部長・・今の私の気持ち、重く感じないでください。憧れのような物なので本気で付き合いたいとか大それた考えがある訳ではないん…

君へ  10

僕の職場での立場は「営業部」の部長だ 普通に営業もするが、1日の半分は相談事を引き受けている いわゆる会社での裏の顔は「コンプライアンス部」の部長でもある 会社の社長とは幼馴染みで、表立ってコンプライアンス部を立ち上げると 相談に来た社員達が…

君へ  9

妻に最後通告をしてから1週間が経った まだ何の連絡もないが彼と色々相談でもしているのだろう そう思ってこちらからも連絡は避けていた 今日は日曜日 少し遅く起きて朝食をどうしよかと冷蔵庫を開けたが 昨日までの忙しさで買い物をしていなかったのに気が…

君へ  8

妻の彼氏と言うべき男性が出て行ってから ひとまず妻の携帯にメールを出してみた 彼が来た事、とても心配していた事、近い内に出て行ってほしい事 既読にはなったが返事はない 僕の浮気が誤解だったとしてもこの何年間の家族の僕への仕打ちに対して 気持ちが…

君へ  7

自宅の前で立ち止まって後ろに下がりながら家を眺めた この家も結婚が決まって2人で考えた末に決めた家だ それは覚えている でも、その後からの事を思い出せない 僕は本当に記憶喪失になっているのだろうか? 毎日お弁当を食べる生活も買い忘れたという理由…

君へ 6

人の記憶はあやふやな物だ 良い事は忘れるのに、悪い事はいつになったら忘れられるのだろう 歩きながらつくづく思った 自分の中の家族の思い出は「家庭内別居」が始まってからの物ばかりだ 娘達が小さかった頃の思い出までも打ち消されている 希望が見えた気…

君へ 5

部屋に入るといつも通りの行動 カバンを机の上に置き、着替えながら脱いだスーツなどをハンガーにかける そして、パソコンを開く・・・ 昨日までの日記を読み返した 大半が仕事の事だが、家庭内別居の頃から時々は家族への気持ちを書いている 殆どは疑問形だ…

君へ 4

「もう、止めてくれ」 出来るだけ優しい言い方をしたつもりだけど 内容は優しくないかな・・ 「別れるんだろ・・罪滅ぼしのつもりならもう十分だよ 美味しかった、ありがとう」 下を向いていた「妻で無くなる女」が僕の顔を見上げた 不思議そうな顔で・・・ …

君へ 3

1週間程して、妻と名乗る女が夜中に「離婚届」を封筒に入れて持ってきた 今度は部屋の前で渡された 「すぐに書くから、ちょっと待ってて」と言うと 「今すぐじゃなくてもいい・・・でも、書いて持っていてほしい」 「分かった、じゃぁ必要になったら受け取…

君へ 2

娘が成人式を終えてからどのくらい経った頃だろう 妻と名乗る女が「話があります」と夜中に僕の部屋にやってきた 家庭内別居が始まって初めての事だ 僕は「ではリビングで・・・」と言うと 娘たちに聞かれたくない話だから部屋の中で・・と言った 仕方なく部…

君へ    1

長い時間をかけ、止まない雨に打たれながら、霧の中を迷い歩き、疲れ切ってもなお歩き続け、出会ったのが「彼女」だった。 結婚して15年の頃の話し、子供は中学2年と小学5年2人とも娘で母親とは仲が良い僕達夫婦は、いつの間にか「夫婦愛」ではなく「家…