hanaremon’s blog

小説や詩のブログ

君へ 3

1週間程して、妻と名乗る女が夜中に「離婚届」を封筒に入れて持ってきた

今度は部屋の前で渡された

「すぐに書くから、ちょっと待ってて」と言うと

「今すぐじゃなくてもいい・・・でも、書いて持っていてほしい」

「分かった、じゃぁ必要になったら受け取りに来て・・」

「お願いします」

下を向き、僕の顔を見る事無く背中を向けた

すぐに部屋のドアを閉め、封筒から取り出した離婚届には

まだ、何も書いてなかった

僕は、もう妻の名前が書いてあるだろうと思っていたから少し驚いた

すぐにでも別れたいんじゃないのか?

自分が書いておけば僕に対しての意思表示にもなるんだし・・・

まぁ、書く事は簡単に出来るから僕が書いてからでもいいのか・・そう思った

子供達との事は僕には関係ないから勝手に話し合っているだろうと思う

この家は僕名義だし、好きな男がいるならそっちに行くだろう

引っ越しの事とか決める事も多いのか・・とも思った。

近く一人暮らしになる・・この家で一人で暮らす事を考えた

考えたが、今と変わらない毎日があるだけだと気が付いた

この何年間、自分の事は自分でしてきた

何でも出来る様になっている

顔を合わせないように気を付けて暮らしていただけだ

かえって家の中を自由に動ける、自由に過ごせる

快適じゃないか?・・・想像したら笑みがこぼれた

その夜は気分よく眠る事が出来た

 

次の日の朝から「妻で無くなる女」にお弁当を渡されるようになった

相変わらず下を向き顔は見ないようにしている

理由を聞きたい所だが、面倒な気がして黙って受け取った

会社のどこで食べればいい?

昔はどうしてたっけ?

知っている人に見られるのが嫌で会社の近くの公園に行った

人が少ない場所を選んでベンチに座った

紙袋の中から布に包まれたお弁当箱を出し膝の上で広げた

蓋を開けると美味しそうに盛り付けされた和食のお弁当

美味しそうだが、喜んで食べられない

箸をつけようとして一瞬嫌な思いがよぎった

「毒」でも入っているのかも・・

大根の煮つけをちぎって足元に来た鳩の目の前に落とした

つついて食べ終わった鳩が歩いていくのを見ながら箸をつけた

「うん・・美味しい・・」

さすがに考えすぎだったな・・

久しぶりに手料理を食べた・・それも僕が好きな物ばかり

久しぶりすぎて最後に食べたのがいつだったのか思い出せないくらいだ

よく僕の好きな物を覚えていたな?と感心した

その日以来、僕の好きな物ばかりが入ったお弁当を渡され

今日まで1週間、毎日公園で食べた

ここまで来るとこれが食べられなくなるのかと少し寂しい気がした

「ん?これが狙いか?」

しかし、離婚する相手にそう思わせるメリットがあるのか?

解らないが、もう断ろうと思った

これ以上の接触は離婚の妨げになりかねない

帰って「妻で無くなる女」に弁当箱を渡す時「もう止めてくれ」と言った。