hanaremon’s blog

小説や詩のブログ

君へ  16

その日、家に帰った俺は携帯を見つめていた

自分から掛ける事はもう無いと思っていたから少し勇気が必要だった

あれから少し時間がたっているし、変に急かす様な感じにもしたくない

しかし、このままでは落ち着かないのも正直な所だし、奴のセリフではないが

「結婚したままではどうしようもない」のは確かだ。

ただ、どう切り出すのが妥当なのかが分からない

焦っていると勘違いされたくない・・・変な見栄だが・・

多分だが食事も終わっている頃だろうと思う・・勇気を出して掛けてみた

何回か呼び出し音がなって出たのは娘だった

「お父さん?」

「ああ、久し振り・・・お母さんは?」

「今外に出てるの・・何時になるか分からない」

「分からないって・・携帯も持たずに出てるのか?」

「あの人と一緒だから・・・」

「一緒だと携帯持って行かないのか?」

「・・・」

「まぁいい・・ずっと連絡が無いからどうしているのかと思って掛けてみたんだ

 その彼氏さんからも音沙汰なしだし」

「お母さん・・夜の仕事始めててあの人が送り迎えをしてるの」

「は?・・どうして?あの人お金持ちなんだろ?どうして夜の仕事なんか」

「結婚していない人たちにお金は出せないって言われて・・・でも結婚はするつもりだから一緒に過ごしたいって、マンションには住まわせてもらってるんだけど・・・

そんなに部屋数も無いから、お父さんの家で私が使っていたくらいの部屋で3人で寝てる。携帯は知らない間にどこかに聯絡されたら迷惑だからって持たせてもらえないし・・でも、この携帯だけは見つからない様に持ってなさいってお義母さんが・・」

「‥良く分からない男だな・・お父さんの所にはきちんと挨拶に来たんだけどな」

「離婚の話・・全然進んでないんでしょ?」

「いろいろと相談してから彼から連絡を貰う事になってたんだ・・でも・・」

「お父さん・・離婚しないでほしい・・また一緒に住みたい・・ダメ?」

「・・・お母さんの彼氏がどんな人であれ離婚はするよ・・お前達には悪いが長い間の気持ちのすれ違いで、お父さんはお母さんへの愛情は無くなってる・・一緒には住めない・・お前達だってお父さんを嫌ってただろ?・・もう戻れないよ」

「・・・そうだよね」

「でも、彼氏があまりいい人でないのだけは解った・・彼氏の携帯番号を教えてくれないか?会社の名刺は貰っているから分ってるが、携帯番号は知らされていないんだ。

それとそこの住所を・・。ちょっと調べてみるから・・その携帯、絶対に見つかるなよ・・履歴は消しておきなさい・・分ったかい」

「分かった・・ちょっと待ってね」

娘からとんでもない事を聞いてしまったが、掛けて見て良かった

連絡が来るまで待っていたら何も知らずに元家族を見捨てる事になって居たはずだ

取り敢えず、パソコンで彼氏の会社を検索してみた。

彼氏が言っていた通り家族経営の大きな会社だ

そかし会社は大きいが・・家族経営のはずなのに彼氏の名前を検索しても出てこない

別荘を持ってるのも確かだが、彼が言う様な大きなものでも何軒もある訳でもない。

娘の話だとマンションも狭そうだ。

妻を本当に愛しているのなら夜の仕事なんかさせないだろうし、娘達に携帯も持たせないなんておかしい・・大切にする様子もなさそうだ。

明日、奴に聞いてみよう・・この会社ならツテがあるかもしれない

 

次の日、時間を空けて奴に話してみた

「その会社なら社長を知っているよ・・・でも、そんな名前の息子なんていたかな?」

「家族経営と言えども、必ず息子が働いているとは限らないよな?」

「それはそうだが・・あそこの社長は家族大好き人間で子供は全員自分の会社にいるはずなんだが・・」

そう言いながらすでに社長に電話し始めた

「お久しぶりです社長・・奥様お元気ですか?また手料理をご馳走して頂きたいものです・・・所で、社長に○○と言う名の息子さんはいらっしゃいましたか?最近部下がその人と知り合いになったと報告がありまして・・でも、僕には記憶が無くて・・名刺には○○所属と書いてあるんですが・・

・・はい?・・あれ、おかしいな。人違いでしょうか?でも、確かに社長の息子だと言っていたそうなんです。・・そうですか、ではお待ちしております」

奴はそう言って携帯を切った

「どうだった?」

「そんな名前の息子は居ないそうだ・・でも、会社の名刺を持っていたのなら会社の人間かもしれないから人事課で調べて折り返し連絡をくれるそうだ」

「悪いな、プライベートな話で手間を取らせて・・」

「お前の離婚話を進めないといけないからな・・前祝が無駄になる」

「お前は~~ははは」

「しかし、そんな事になって居るとはな~・・離婚するにしてもそんなんじゃ気分が悪い・・ウィンウィンで行かないとな」

離婚にウィンウィンなんてあるのか?・・しかし、出来ればその方がいい。

何分も立たない内に携帯が鳴った

「はい・・そうでしたか、いえ、こちらこそお騒がせしまして・・分りました。

ではまたご連絡させてもらいます。ありがとうございました。」

社長の話によると、その男は確かに名刺の部署に所属はしていたが、最近問題を起こして辞めたそうだ。・・残っている名刺は返納して貰ったそうだがまだ持っていたのだろうと・・。

それで、妻に夜の仕事をさせているのか・・。

結婚をすると言うのも本心ではないだろう・・体のいい結婚詐欺だな。

「それで、どうする?・・その男の住所は知っているのか?」

「ああ、娘から聞いている・・しかし、どうしたら良いものか・・」

「俺にいい考えがある」そう言って奴はニヤリとした。

こいつの「いい考え」はきっととんでもない思い付きだ。