君へ 15
一緒に営業部に戻った
すると、彼女の元の部署の女性が待っていた
その女性を見て、彼女は僕の後ろに隠れる様に1歩下がった
「何か?」
僕が言うと彼女をのぞき込んで「何であんたなのよ?」と言った
察しは付いた、この人が苛めのボスなんだと・・。
「僕の秘書に何の御用でしょう?何なら僕が聞きますよ」
「なら聞きます・・どうしてこの女が部長の秘書何ですか?女の武器でも使ったんじゃないんですか?そうでなければ急に・・こんなに急に出世する訳ない・・皆そう言ってます。汚い手を使ったんだろうって・・部長、騙されてるんじゃないですか」
「は~~貴女は何の権利があって僕の秘書にそんな暴言を吐くんですか?」
「だって、皆、部長の事狙ってたのにこんな女が・・」
「狙ってた?」
女性が慌てて口をふさいだ
「ちょっとこちらに来て頂けますか?」
彼女には席に戻るように言って女性を応接室に案内し応接室の電話で社長に電話した。
「俺だけど、悪いんだが営業部の応接室まで来れないか?・・ああ、頼む」
女性はまだ興奮気味だ
1分もしない内に営業部の方がざわついた
社長がノックも無しに入って来た
「悪いな」
「いいよ、どうせ暇は奴だからな~」と自分を指さしニヤリとした
女性は奴の顔を見ても分からないでいるようだった
奴は女性の前に座って自己紹介をした
「社長の○○です・・営業部長の秘書に文句があるようですね」
そう言われても女性は鼻息荒く、さっき俺に行った言葉を繰り返した
「そうですか・・そういう風に見えてますか?」
そこまで言ってやっと女性が聞いた
「あんた誰よ」
「社長の○○ですよ・・さっき聞こえなかったですか?」
俺が言うと、みるみる青くなりソファから立ち上がり深く頭を下げた
「彼女の移動は僕が決めたんです・・部長に大きな仕事を任せるに当たりどうしても
秘書が必要だと判断し仕事の出来る女性をピックアップして急ではありましたが
彼女に来てもらいました。・・・そちらの課長にも話は付いているはずですが
朝礼で聞きませんでしたか?」
「・・き・・ききました・・はい」
「あなたは彼女の元部署の先輩にあたりますよね?彼女の仕事ぶりを目のあたりにしてきたはずです。女性の武器?とやらを使わなくても十分に認められる人材です」
「・・・・はい」
「でしたら分って頂けますよね?・・それとあなたは苛めの中心人物だと分っています
前からあなたの処分をどうしたものかと思っていたんです。今後、他の人にも同じ事を繰り返す様でしたら社長として辞職も言い渡さなければなりません。
でも、縁あってわが社で働いてくれている人間にそんな事はしたくはない。
僕は全社員を見ていますよ・・これからも頑張ってこの会社を盛り上げて行って欲しい
お願いできますか?」
「・・はい」
「では、自分の部署に帰って仕事を続けてください」
俺はそう言ってドアを開けた
女性は小さくなって出て行った‥そのついでに秘書の彼女に珈琲を頼んだ
ドアを閉めた途端、奴は笑い始めた・・笑いながら言った
「お前・・俺を出しにしてお腹の中で笑ってただろ?分ってるぞ」
「彼女を守れっていただろ?ああいう女には部長の俺より雲の上にいる社長の言葉の方が聞くんだよ・・きっと今頃、文句を言った事とか忘れて ”社長に頑張れって言われた” って自慢しているよ」
ドアをノックする音がして奴がいつもの通り「入れ」と言うと彼女が珈琲を2つ用意して入って来た
「ありがとう」と言うと珈琲をテーブルに置きながら
「いえ・・こちらこそありがとうございました」と言う
「社長が上手く纏めてくれたよ・・もう心配はないと思う」
彼女はホッとしたのか目が潤んでいた
我慢強い女性だ・・そのまま泣かずに頭を下げて出て行った
「お前にぴったりの女性だよ」
「だから~~」
「離婚が成立したらお祝いしようぜ」
「お祝いする事か?」
「まず前祝だ」
奴はそう言って珈琲カップを持ち上げた
笑いあったが、本当にそろそろきちんとしたいものだ
連絡を待っているだけでは埒が明かないのかもしれない
今夜あたり妻の携帯に連絡してみようと思った