hanaremon’s blog

小説や詩のブログ

君へ  13

家に帰った僕は今日の事をぼんやりと思い出していた

久しぶりに楽しい食事だった

彼女の悩みが解決した訳ではないが、彼女のあの笑顔を見ていると

少しは気が楽にはなったのかなと思えた

僕の事が憧れだったのはきっとお父さんを知らないから年上の男性に惹かれただけだろうと思う

僕の様なうんと年上なんかと関わらない方が彼女の為だ

彼女には相応の相手と幸せになってほしいと心から思った

しかし、今回の事は社長が何か知っていたからだろう

それでなければ「恋人を作れば解決」などと言う訳がない

明日、朝一から締め上げてやる

風呂に入りながらそんな事も考えていた

 

次の日の朝、いつもより少し早く出社した僕はそのまま社長室に直行した

ノックをすると「入れ」と声がかかり勢いよくドアを開けた

「おい、昨日のあれは・・・」と言いかけて息をのんだ

彼女がいつもと違うスーツ姿で立っている

「いい所に来た・・紹介しよう」

社長は至極冷静に話し始めたが僕は驚きで混乱した

社長が言っている事が飲み込めない

「おい、聞いてるのか?」と目の前で両手を叩かれた

「あ・・いや・・もう1度行ってくれ」

「今日から彼女をお前の秘書につける・・・営業もコンプライアンスの事もしっかり教え込んでくれよ」

「部長・・よろしくお願いします」

彼女が僕の前に来て深く頭を下げた後、私をまっすぐに見た

昨日の可愛らしい彼女とは全く違う、大人の女性になった彼女がいた

彼女の肩越しにクスクス笑う社長が見えた

「おい・・どういうことだよ。びっくりするだろ」

彼女には夕べメールでこの事を話し承諾を得たとの事だった

「だが、一晩でこんな事決めて彼女の部署だって困るだろう」

「社長命令だぞ。断れるわけないだろ?」

「しかし・・・」

「彼女の仕事ぶり、成績は私の黒子達がしっかり報告してくれた・・お前の秘書には勿体ないくらいの仕事ができる女性だぞ! 文句あるのか?」

ため息が出た

「私でご不満でしたら、そうぞ遠慮なく断ってください」

彼女は昨日と変わらない屈託のない、それでいてはっきりと意思表示をした

「いや・・そうじゃないんだ、君なら申し分ない・・でも良かったのかな、僕なんかの下に付くなんて・・それもこんな急に・・」

「私は嬉しいです。夕べメールを貰った時はドッキリなんじゃないかと思ったくらいでしたけど・・ふふ・・でも本当の事だと分って社長に感謝しました。夢の様です」

「この部署替えで彼女への妬みがもっと酷くなるかもしれないが、守ってやってくれよ

頼りにしているよ・・部長」

「まったく~」

困ったやつだと思いながら、社長の考えは理解できる

彼女が今の部署にいる限り苛めはエスカレートする。他の部署でも同じ事だ

だから、俺の下に付けた。

「恋人を作る」なんてめちゃくちゃな提案より至極まともな考えだ

しまった・・あいつに肝心な事を聞いていない。しかし彼女の前で聞けるわけもない

「じゃぁ、彼女を連れて早速仕事にうつってくれ。」

「分かりました。失礼します」

社長室を2人で出てデスクに戻りかけて、仕事にはまだ早い事に気が付いた

「取り敢えず・・・下のカフェでお茶でもしようか?」

「あっ・・はい」

スーツ姿の彼女を早い出勤をしてくる社員がみて気にしている

「おい、彼女誰だ?」

「さ~・・あんな美人営業部にいたっけ?」

「面接かな?」

中途採用にしても時期がおかしいだろ」

「それに、今から外に行くみたいだし・・・」

なんだか、自分の方が鼻高々だった