貴方へ XlV
次の日、私は朝早く目が覚めた
気になって眠れなかったわりに、気になって起きてしまったんだろう
朝食は7時から・・まだ時間がある
このまま一人で部屋にいるのも落ち着かない
朝食前の散歩にでも出かけようと部屋を出た
ホテルから少し歩くと、拓斗と初めて一緒に行ったカフェが開いていた
1人だけど、入ってみようと思い立ち扉を開けた
「いいですか?」とマスターに声を掛るとカウンターへ手招きされた
ちょっと緊張したが、ミルクティーを頼んで待つ間に朝のカフェを見まわした
アンティークな椅子やテーブルに似合う置物やお花・・可愛い窓
明るいとこんな感じなんだな~なんて思いながら座っていると
「今日はおひとりですか?」とマスターに声を掛けられた
「早くに目が覚めてしまい散歩に出たんです」と答えると
「立ち寄って頂きありがとうございます」と丁寧な言葉で会釈された
それ以上踏み込んでこないのが居心地がいい
出されたミルクティーに小さなクッキーが添えられていた
「朝のサービスです」
嬉しくなって少しずつ口に運んでいると、マスターが独り言のように言い出した
「この店は亡くなった妻が大切にしていた店なんです・・だからここに立ち寄ってくれる方を大切にしようって思えるんです・・そのクッキーも妻が残したレシピで作ってるんですよ」
どうして常連でもない私にこんな話をしてくれるんだろうと頭を上げると
「この間の彼とはきっと相性がいいと思いますよ・・僕は人を見る目はあると思ってます。いろんな事情とかあるでしょうけど大切になさってくださいね」
そう言ってニコリとして背を向けたマスター
私はその背中に「はい」と返事をして、飲み干したカップを少し前にずらし
会計を済ませてお店を出た
気分のいい朝になった・・散歩に出てよかった
ホテルに帰ると、朝食の準備が出来上がろうとしていた
フロントの方が「もう召し上がっていただけますよ」と声を掛けてくれた
「それなら・・」とお盆をもって箸を頂き和食のメニューを選んで席に着いた
食べている間も続々と現れるホテルに泊まっている人達
今日が始まる・・ざわざわしている中で自分の中で戦闘態勢が整った