hanaremon’s blog

小説や詩のブログ

君へ  9

 

妻に最後通告をしてから1週間が経った

まだ何の連絡もないが彼と色々相談でもしているのだろう

そう思ってこちらからも連絡は避けていた

今日は日曜日

少し遅く起きて朝食をどうしよかと冷蔵庫を開けたが

昨日までの忙しさで買い物をしていなかったのに気が付き

歩いて数分の所にあるカフェで何か食べて買い物に出かけようと

着替えて玄関を出た時に妻と彼が訪ねてきた

「突然すみません、少しだけよろしいでしょうか?」

そのままリビングに通して2人の話しを聞く事になった

妻はずっと下を向いたままだったが、彼がゆっくり話しだした

「彼女は今でも貴方とやり直したいと言っています・・ですが、この間の

 貴方からの言葉で無理な事は解ったみたいです。

 それで、僕としては娘さん達の為にも僕の家を提供して住んで貰って

 僕は仕事場として借りているマンションでしばらく暮らそうかと思っています」

「君はそれでいいの?」

「はい、僕は彼女が好きです。一度は結婚を約束しましたその気持ちは変りません

 それで、引っ越しの日は貴方がいらっしゃらない日の方がいいのか、それとも

 いらっしゃる日が良いのかそれをお聞きしたくて・・・」

「僕はどちらでもいいよ、そちらの都合で構わない」

「分かりました・・こちらで話し合って決めます。日が決まったら僕の方から

 連絡したいので連絡先を彼女から教えて貰ってもよろしいでしょうか?」

「ああ・・構わないよ」

「ありがとうございす・・では今日はこれで・・・」

そう言って立ち上がって彼が妻に寄り添って玄関で深く頭を下げて帰って行った

まるで他人の夫婦を見ているようだった

 

彼らが帰った後、気を取り直して出かける事にした

しかし、カフェは満員だった

仕方なく少し先のスーパーまで歩き買い物をしながらお弁当も買った

ずっとそうやってお弁当を食べて来たからひとりになったら料理も楽しもうと

思っていたが、今日はやめておこう

引っ越しが終わるまでは落ち着かないだろう

買って来た物を冷蔵庫や戸棚に片付けて

日本茶を用意しながら彼の話を思い出していた

お金には不自由してなさそうだ、確か別荘も持っていると言ってたな

最初から一緒に住まないのは僕への配慮だろうとも思った

どう見てもある程度年下だろうし僕から見ても好青年だ

妻はどこでそんな男性と知り合ったのだろう

そんな事を考えながらお弁当を食べ始めた

正直、いつもより少し味が薄く感じた

「疲れているのかな?」と思いながら食べ終えて片付けをしていたら眩暈がした

急に悪寒もしてきた

「風邪か?」

風邪は引きやすいので薬は常備している

薬を飲んで横になるとすぐに眠ってしまったらしい

目が覚めたらすでに外は暗くなっていた

部屋の明かりを点けたタイミングで携帯が鳴った

出てみると会社の女性の社員さんからだった

「何度もメール出したんです・・でも何にも返事がないので心配になって・・・」

泣きそうな声でそう言われて、申し訳なくなって

「ごめんごめん、風邪ひいたらしくいて眠ってたんだよ・・急な用だった?」

「あぁ、そうだったんですね、すいません・・あの‥少し相談があったんですが

 体調がお悪いんでしたらまたにします」

「申し訳ない・・仕事の話しなら明日の朝一にでも・・・」

「いえ・・個人的な事なんです」

「そうか・・それなら明日の昼、ランチでもしながら聞くよ」

「体調、大丈夫ですか?・・無理しないでくださいね」

「大丈夫、大丈夫・・風邪引きやすいんだよ・・ははは」

明日のランチの約束をして携帯を切った

こう言う事は珍しい事ではない

女性同士よりも男性の方が相談しやすい事は多いらしい

しかし、誤解を招かない様にするのに少しだけ気を遣う

必ずノートを持って行って話の内容を纏めながら聞いていく

個人的な付き合いではない事を周りからでも分かるようにしているのだ。

そのノートは最後には相談相手に渡して、自分の中では残さないようにしている

 

次の日、電話の女性社員と行きつけのカフェでランチを取りながら

ノートを広げてメモリながら話を聞いていた

すると、その女性社員さんが急に黙ってしまった

「どうかした?」

「あの・・体調は大丈夫ですか?」

「ああ、もう大丈夫だよ・・食欲もあるし、気にしなくていいよ」

「ならいいんですけど、あまり顔色が良くない気がして・・・」

「・・少し疲れているのかもしれないけどいつもの事だから・・」

「いつも?・・私、心配です」

「ありがとう・・でも平気だよ・・話の続きを聞こうか?」

そう言うと、女子社員さんは続きを話しだして最後にこう言った

「恥ずかしい話ですが、ずっと悩んでいて・・・」

彼女が悩んでいたのは会社内で何人かに食事に誘われてすべて断ったら

男性社員からは「お堅い融通の利かない面白くない女」のレッテルを張られ

女性社員からは「モテルからっていい気になっている嫌な女」と言われ

嫌がらせだろうと思われる出来事があり仕事がとても遣りにくい事と、

好きな人がいるがそれも会社の人間だから打ち明けられずにいる、

その人にも嫌われているかもと思うと会社に来るのが怖くなっている

そう言う悩みだった

ノートには誘って来た男性社員の名前と部署と誘って来た時期、

レッテルを張られたとはっきりわかった理由と時期

女性社員に嫌な事を言われ始めた時期

嫌がらせの内容とどう思ったのかと言う事

彼女は手帳にしっかり書いてあって分かりやすかった

これを、どう解決するかだが・・・

少し難しい気がして、宿題にさせて貰った

「しばらく不安だろうが、我慢してくれる?どうしようもなかったら有給で・・」

そう言って、ランチを終わらせて職場に帰った