hanaremon’s blog

小説や詩のブログ

貴方へ  Ⅺ

 

その晩も彼の部屋で一緒に眠った

出勤の1時間半前に起こして、一緒にホテルの朝食を食べて送り出した

彼は今日の夜は自分のマンションに戻る予定だ。

彼を送り出した後、私はホテルの自分の部屋で考えていた

貯金を使って家出しておひとり様で食事してみたり美容院行ったりした

そして、好きな人が出来た

これからの事も話し合ったから、やる事も分かっている

でも、こんなに短い時間でこんな風に自分が変わるなんて大丈夫だろうか

彼といると幸せで他の事は考えられないけど

1人になると幸せの大きさの分、不安が膨らんでくる

この状態を長くは続けたくない

彼の為にも出来るだけ早く一人になりたい

彼と普通に付き合いたい

そう思うと、出てきた家の様子が気になりだした

困っているのなら離婚はすぐには承諾して貰えないかもしれない

でも、何もかも放り出して理由も言わずに飛び出した私を怒ってもいるだろう

返って、怒りをかっている時に離婚を言い出した方がいいのかもしれない

そう思って、家の様子を見に行くことにした

車で1時間・・近所の駅の駐車場に止めて歩いて家の前の公園から様子を見た

見たと言っても古い家で大きなサッシの窓とかは無いので家の中までは見えない

ただ、2階の窓に布団が干してあった

変だなと思った

夫が干したとすれば会社が終わって帰って来てからしまう事になるが

それでは夜になってしまう

義母が動けるはずもないし、だいたい夫がそんなまめな事をするとは思えない

しばらく公園のベンチから眺めていると、買い物袋を持った義母が歩いて帰って来た

「え?」驚いてつい声が出てしまったが耳の遠い義母には聞こえはしない

見間違いかとも思ったが確かに義母だ

どうして歩けているんだろう・・

見ていると、玄関のチャイムを鳴らした

誰もいないはずなの家なのにどうしてチャイムを鳴らすのだろう

少しすると若い女性が玄関を開けて「お義母さん、お疲れ様」

そう言って荷物を受け取って義母をいたわりながら家に入って行った

訳が分からなかった、私が居なくなったたった3日の間に何が起こっているの?

少し様子を見たらホテルに帰るつもりだったが、帰るに帰れなくなった

近所の人に見つからない様に家の勝手口の方に回って体を屈めて聞き耳を立てた

義母とさっきの女性であろう声が聞こえて来た

「お義母さん・・頑張りましたね~」

「疲れたけど・・やっぱり歩くと気分がいいわね~」

「でしょ?家の中で寝てばかりの方が良くないんですよ」

「本当ね~貴女の言うとおりだったわ。これからも宜しくね」

「はい、お義母さんの身体の事も生活も任せてください」

「嬉しいわ~前の嫁なんて世話はしてくれたけど暗くてね~うっとおしかったのよ

 貴女みたいに明るくて話しやすい人が来てくれて、体を動かす気にもさせてくれて

 本当に楽しいわ」

「・・でも、前のお嫁さんの荷物とかまだありますから取りに来るんでしょ?」

「だろうけど・・そこはあの子に任せてるから・・・」

この会話はなんだろう「前の嫁」とはきっと私の事だ

私が出てから3日・・その間に義母を励まし歩くまでにしたのはこの女?

でも、私がお世話をしていた何年間・・全く動けなかった義母が歩くように?

嘘よ・・リハビリにさえ行きたがらなかった義母がそんなに急に身体を動かせるようになる訳ないのに・・・

「お義母さん、前の奥さんてそんなに暗かったんですか?」

「笑った所を見た事ないわね~ニコリともしなかったわ・・・まぁ、子供もいなかった                し楽しい事なんて無かったんじゃないかしら・・あの子もうんざりしてたわね~

出て行ってくれて良かったわ」

その言葉に愕然とした

笑えなくなったのは義母と夫にさんざん子供を産めないダメな嫁だと罵られたからだ

同居だって嫌だった・・でも身体が動かなくなった義母を最初から拒否できなかった

だから、追い詰められたのに・・・

「同居なんて本当はしたくなかったんだけど、あの子が世話位させなきゃ一緒にいる意  味がないなんて言うから・・・私が歩ける事は内緒にしておいたのよ

嫁は午前中パートに出てるから、その間だけ動いて帰ってきたら寝たきりの振り・・

最初は面白かったけど、だんだんつまらなくなっちゃって・・・でも、ご近所さんにでも見られて嫁に告げ口でもされたら大変だから外には出なかった訳」

「そうだったんですね・・私としても前のお嫁さんには悪いですがこの時期で良かったです。子供が生まれても愛人のままなのかと寂しく思ってましたし、

お義母さんに子供の顔を見せられるって聞いて本当に嬉しかったんですよ

でも、近い内に戻って来るんですよね・・その時は私は居ない方がいいですよね」

「そうね・・貴女の事が分ったら慰謝料取られるのは解ってるし・・・でもまだ3日だからもう少し大丈夫よ。何日かして戻ってきたらすぐに離婚届を書いて貰うつもりだから出したらすぐに連絡するから戻って来てね」

「はい、お義母さん」

身体が硬直した

やっと色んな事に合点がいった

色んな物の場所が変わっていたり、冷蔵庫の物が無くなっていたりした

午前中は殆ど寝ていると言っていた義母だが、読んでいる本の進み具合が早かったり

大人用のおむつがあまり濡れていなかったし・・・でもそんな事疑った事も無かった

いつも残業だと言って帰りが遅かったのはこの女の所に行ってたからだったんだ

この親子にこんな騙され方をされていたなんて

そして、ほかの女に子供まで出来ていたなんて・・・

頭に血が上るのが分かった

身体が勝手に動き勝手口の扉を勢いよく開けた

「そう言う事だったんですね。よ~くわかりました。慰謝料は頂きますのでそのおつもりで・・」

私は夫の通帳とカードと義母の部屋の引き出しから現金を取ってカバンに押し込み

そのままの勢いで勝手口から飛び出した

後ろで何かしら怒鳴っていたが車まで振り向かずに走った

その足で、銀行に行ってATMで全額引き出し通帳とカードをポストに入れに戻って

そのままホテルに帰った