hanaremon’s blog

小説や詩のブログ

貴方へ Ⅸ

ホテルを出て歩きながら、聞きたい事や確かめたい事が沢山あって

何から切り出せばいいのか考えていた

彼が向かった先は駅前にある「レンタカー」のお店

そこで彼の名前で車を借りて出かける事になった

車の中ならなおさら聞きやすいが、なかなか言葉が出てこない

すると彼の方から言葉が出た

「聞きたい事、あるんでしょ?」

「・・うん、そうなんだけど・・・」

「何でも聞いてくれていいよ」そう言って笑顔を見せた

「いろいろあって、何から聞いたらいいか・・・」

「じゃぁ、僕から・・・」

そう言って彼の口から聞いた事は驚きの連続だった

彼は前から私の事を知っていた

私のパート先のスーパーで良く買い物をしているそうだ

私は接客が苦手だから無口なレジ係で、お客さんの顔なんて殆ど見ない

でも、彼は気持ちの良い接客だと思っていたそうだ

「私、喋ったりしないのに?」

「そう言う事じゃないんだよ・・物を扱う姿勢っていうのかな?

 殆どが食品だし雑には決して扱わない・・レジ用のカゴに並べる様子

 いつも丁寧だなって思って見てた」

彼は一人暮らしで沢山は買わない代わりに毎日の様に通っていて

そして、必ず私のレジに並んでいてくれたらしい

「知ってた?沙代里のレジが一番お客さんが多く並ぶんだよ」

「え?・・そんな事ないと思うけど・・」

「沙代里がどのレジに居ようと必ず一番多く並んでるんだよ

 毎日の様に通う僕が言ってるんだから信用してください」

そう言って笑った。

つられて笑ったけど、ちょっと恥ずかしかった

そんなに会っていたなんて・・いや、見られていたなんて知らなかったから・・

彼の家は近くのマンションで、私の家からも車で10分と掛からない場所だった

パート先のスーパーはその中間点にある

そこで、ちょっと気になった

初めて声を掛けられた時、知っていて「思い出した」と演技をしたって事だよね

それって・・・

そう思った時、彼がそれに気が付いて噴出した

「沙代里って顔に出るよね・・・そうだよ、しらばっくれて思い出した振りをしたんだ」

「やっぱりそうなのね・・・でも私ってそんなに分かりやすいの?」

「分かるよ・・・僕、ずっと沙代里の事を見て来たんだから」

その言葉で心が震えた

涙が溢れだした

今まで自分の事をこんなに分かってくれる人なんていなかった

いつも私の気持ちなんて考えて貰えなくて、死ねないから仕方なく生きてきた

友達のおかげで少しだけ前に進めたけどちゃんと夫と戦えるのか心細かった

でも、今目の前に私をちゃんと見てくれる人がいる

ちょっとした表情で心の中まで分かってくれる人がいる

それがこんなに幸せな事だったなんて知らなかった

心が息づいていく・・胸が暖かくなっていく

涙が止まらない

 

彼が公園の駐車場に車を止めて、私の頭をなでて肩を貸してくれた

私が声をあげて泣き始めても黙って寄り添ってくれた

私は一晩でずっとほしかった物を手に入れられたんだ

神様に感謝した