君へ 5
部屋に入るといつも通りの行動
カバンを机の上に置き、着替えながら脱いだスーツなどをハンガーにかける
そして、パソコンを開く・・・
昨日までの日記を読み返した
大半が仕事の事だが、家庭内別居の頃から時々は家族への気持ちを書いている
殆どは疑問形だ・・分からないことをああだろうかこうだろうかと・・
しかし、ここ何年間かは何も書いていなかった
解らない事も分からまいまま諦めていた
でも、この間の「離婚」の話の時に初めて分かった事実
今更どうしようもなく受け入れた離婚
久しぶりに家族との日記をつけた
娘たちの動揺も分からないでもないが、僕の中ではすでに他人に近い
離婚したら近いうちに再婚をするのだろうし
新しい家族になるやつの事も知りたいとも思わない自分がいる
それだけ気持ちが離れてしまったらどうしようもない
僕は他に好きな人なんて作る気にもなれなかったし
現実問題「不倫」になると時間もお金も必要だなって思って
告白されたり、迫られたりもしたが気持ちが動かなかった
家庭内別居をしてはいるが、まだお金で家族を養っている
貯金もして娘たちの結婚資金や老後の事も考えていた
だが、それももう不要だ
彼女らのこれからの生活を心配する必要はない
再婚相手にお任せだ
後は、タイミングだけだ
3人がいつ引越しをするのか知らせてくれたら引っ越し費用は出そうと思う
何も言わずに出て行かれたなら渡さずに終わる
その後の事はゆっくり考えよう
日記を書き終えて気が付いた
弁当を買ってきていない事に・・・
「しまった~」
しかし、明日はお休みだ・・・久しぶりに飲みに出かけようか?
気分転換にもなるし、家にいる時間もすこし息苦しいし・・・
そうだ、そうしよう
部屋着にコートを羽織り財布の中身を確かめて小ぶりのカバンを持って部屋を出た
その途端「お父さん・・電話だよ」と上の娘
家の電話?・・誰だろう
娘から受話器を受け取って「もしもし・・お電話変りました」
すると小さな声で「ごめんなさい」と・・・
「どなたですか?‥すいません今から出かけるところなんですが・・」
「隣りの者です・・すいませんでした!!」
「何がですか?」
「旦那さんが浮気しているって話・・・嘘なんです」
「・・・・・」
「仲がいいのが羨ましくて、憎らしくなって喧嘩でもすればいいと思って
嘘ついたんです。・・でも、いつまでたっても喧嘩している様子もないし
奥さんは旦那んさんを信じたんだなって思ってて・・・。
なのに、今日、離婚する事になったと聞いて驚いて・・・
詳しく聞いたらずっと家庭内別居をしてたって‥私の噓が原因だったなんて
もう・・・申し訳なくて・・・」
「嘘なのは妻から聞いた時に分かってましたから・・謝るなら妻に言ってください
今更ですが、その話を聞いた時に僕に何も話さなかったのは妻ですから」
それだけ言ってそのまま受話器を置いた
娘に向かって「ちょっと出てくる」といい玄関に向かった
「浮気って嘘だったの?」と後ろから娘の声が聞こえたがそのまま家を出た
昔、良く行った立ち飲み屋まで歩いた・・少し距離はあるが歩きたい気分だった
やはり娘も私が浮気をしていると思ってあんな態度をしていたのか・・
今夜は1人で飲んで食べて・・気分を変えよう
どうせ、この先は1人暮らしになるんだから気楽にいこう。
僕が描いた「楽しい我が家」はお隣の人の一言で壊れる様なモノだったんだから・・