君へ 19
奴が俺の自宅までの道のりでこれからの事を色々とアドバイスをくれた。
いつも奴は「命令」ではなく「提案」だ、後は自分で判断しろ‥と言う事だ。
俺は一緒に来て欲しいと頼んだんだが、断られた。
家庭の事までは入り込みたくないんだそうだが、すでにかなり入り込んでいる
今更だな~と思いながら、ただ面倒くさいだけ何だろうと思った。
車から降りて歩き出すも車が動き出さない。
振り返って「どうした?」と口パクで言ったら、助手席の窓が開いて奴が言った
「ここで待ってるから、しっかり話をして来いよ。今夜は久しぶりに朝まで飲もう」
そうだった、いつもこう言う奴だった。
「ああ、俺が出て来るまで絶対帰るなよ」
玄関を入ると、妻と娘達、それと秘書の彼女の靴があった。
覚悟を決めて靴を脱ぎ、リビングへ
ソファに4人が座りお茶を飲んでいた。部屋を見回すと綺麗に片付けられていた。
きっと彼女も一緒に掃除をしてくれたのだろう・・恥ずかしい。
俺が入って行くと、彼女が席を立ち「それでは私はこれで・・」と玄関に向かった。
「あっ、外に社長が居るから送って貰うといい」
俺はそう言って奴に電話した。
「ありがとうございます・・でも、社長にそんなお手間を取らせては申し訳ないので・・」
と言いながら、彼女は玄関を開けた。
奴はすでに玄関前に立っていて彼女の手を取り「お送りしましょう」とエスコートして車まで彼女の手を離さなかった。
彼女はこっちを何度も振り返りながら困った顔で社長の車に乗った。
車を見送ってから、リビングに戻りソファに座り直した。
しばらく間があって、娘達が妻の顔を覗き込んだ。
深呼吸をしてから妻が口を開いた。
「ありがとうございました。・・助かりました。本当に・・ありがとう」
3人が揃って頭を下げた。
俺は頭を下げられても嬉しくなかった。
「今回は、奴・・いや社長の機転で上手くいった。秘書の彼女の協力が無ければ上手くいかなかったかもしれない。お礼を言うなら社長に頼む。」
そして、今日の成果を聞かせた。
「だから、あの男とはもう関わらなくていい。・・それと、この家はお前達に渡す
住み慣れた家の方がいいだろうし・・俺は一人だから社長が用意してくれる部屋に引っ越す事にするから・・」
「一緒じゃないの?」
娘達が口を揃えて聞いてきたが、首を横に振った。
「離婚届は、また用意するからサインを頼むよ」
「分かりました」
妻はすでに観念している・・もう、戻れない事は分かっている。
娘達が社会人になるまでの学費や生活費はこっちで負担する事を約束して家を出た。
玄関前に奴の車が戻って来ていた。
助手席に乗り込み、開口一番「彼女に手を出さなかっただろうな?」と言った
「バカかお前! 部下の女に手なんか出すかよ」
「俺の彼女ってわけじゃない」
「何言ってんだよ・・彼女の気持ちは鉄壁だぞ~ははは」
「何を話した?・・言えよ~何言ったんだよ!」
「飲みながら話してやるよ」
「は~~~お前ってやつは~~」
「話しを聞いたらお前、俺に感謝するぞ~」
奴は面白そうに笑っていたが、俺はちょっとへそを曲げながら外を眺めていた。
「