貴方へ XIX(19)
花屋で薔薇をかった。
拓斗が好きな真紅な薔薇を10本。
その足で食事に向かった・・私が落ち着くように普通のカフェ
そこで、食べながらする話ではないかもしれなかったが
核心に触れた・・離婚の話を切り出すタイミング
拓斗が言い出したのは
「これを食べ終わったら、一度マンションに荷物を降ろして、服を買いに行こう」
「・・ん?・・えっと・・離婚の話しだけど・・」
「戦闘態勢に相応しい、戦闘服を買いに行くんだよ!」
「え?」
「今夜、どお?」
「うん、行ってくる」
夫が仕事から帰る時間は解っている。その時間に突撃です。
拓斗が選んでくれた戦闘服は「喪服」だった。
「喪服」と言ってもで上品な刺繍レースをたっぷり使った高価な黒いドレスにタイツ
手首にリボンをあしらったレースの手袋にヘッドハット・・それに合ったバックにかかとの高い靴。
美容院で髪をアップにして、メイクもしてヘッドハットをつけて貰いそして口紅は赤。
まるで別人の様な自分に驚いていたら、美容部員さんに「お綺麗ですね~彼氏さんも自慢でしょ?」と言われ少し恥ずかしかったが嬉しかった。
「こんないい女を手放して後悔したって思わせたい」と拓斗が言った。
着る服と髪型とメイクで自分の気持ちがこんなに変わるんだと初めて感じた。
拓斗が少し離れた駐車場で車を止めて家の前の公園で見守っていてくれるという
ならばと、私は拓斗の想いと共にチャイムを鳴らした。
玄関に出てきたのは、あの女・・
喪服の私を見て「ギョッ」としていたが、すぐに夫と義母を大声で呼んだ
出てきた2人も間の抜けた顔をしていた。
笑いをこらえて「離婚して貰いに来ました」と言うも3人とも動かない
私は勝手に上がり込み、リビングに進んだ・・私が住んでいた時とかなり変わっていた
趣味の悪いグリーンのテーブルクロス、ソファはピンクに買い替えられていた
カーテンもピンク・・そして誇りの積もった本棚やテレビスタンド・・
たった1週間でも掃除をしないとこんなになってしまうんのか・・今までの自分の努力を自分で褒めてあげたいと心から思った。
掃除をされていない床に座るのは嫌だったので仕方なくピンクのソファの上に無造作に置かれている服を隅に寄せ真ん中に座った。
バックから離婚届を出し、義母の好きな黒に近い茶色に煮詰めた何が入っているか分からない煮物や買いおかずだとすぐに分かるフライ物が載っているお皿などを隅に押しのけ広げた。
やっと3人がリビングに入って来て、まず夫が怒鳴った
「いきなり何だよ!!」
「さっきも言いました、離婚して貰いに来ました。サインお願いします」
「あんた、そんな恰好で失礼でしょうが!」と義母・・
「私が居ない事を良い事にお腹の大きな女を住まわせる方がよっぽど私に失礼では?」
「私は、あんたの代わりにこの人の子供を産んであげるのよ!有難いと思いなさいよ」
そう言う女
「ええ、ありがとうございます。そのおかげで離婚の決心がついたんですから・・ここに来るのはこれが最後になります。お別れのための喪服です。
・・・あなた・・サインを・・」
自分で持ってきたペンを差し出し、サインをお願いした。
少し興奮気味の夫がペンを私からつかみ取り枠からはみ出す勢いで名前を書いて
印鑑を持ってきてハンコを押した。
もうその時は、女はニヤついていた。
義母が「あんたが持って行った通帳・・返しておくれよ」と言ったので
「あの30分後にはポストに返しましたよ。カードと一緒に」
きっぱりとそう言った私の様子を見て、おかしいなと言う顔をして隣の女を見た。
「えっと・・私が預かってます・・言ってませんでしたっけ?・・」
女はバツが悪そうに言ったが、夫も女の顔をじっと見ていた。
私が持ち出したままだと思っていたらしい。
その通帳は夫のお給料が入る通帳だったので月末までには返して貰いたかったのだと思う。
「残っていた現金は100万もありませんでした。あんなに節約して1千万近く貯金をしていたのに驚きました。おかしいですね・・。勝手な事をして申し訳ありませんでしたが、そのお金は手切れ金として頂いておきます。これからはまた夫婦そろって頑張ってください」
そう言って、離婚届とペンを回収して家を出ようとすると女が追いかけて来て
「あんたの荷物、持って言ってよ」と言った
「私の物はすべて持ち出しています。何も残っていませんよ」
「じゃあこれは誰のよ」
そう言って投げつけてきたのは紙袋。
中を見ると赤や黒のセクシーな下着だった。
「私のではありませんよ。こういうのは値段も高いのでしょ?こんな下着買う余裕も
趣味も私には無かったですから・・。では、失礼します」
玄関前で深く頭を下げて歩き出した・・自分がカッコいいと思えるくらいに背筋を伸ばして颯爽と歩いて居る事が気持ち良かった。
角を曲がったあたりで拓斗が横に並んで肩を抱いてくれた。
「素敵だよ」
拓斗はそう言って抱きしめてくれた、そしていつものようにキスをしようとした
でも、私はそれを止めた。
「今日の口紅は赤いのよ・・明るい所に出たら拓斗の唇が赤くなっている事が
周りの人にバレちゃうわ」
「じゃぁ、早く帰って好きなだけキスさせてよ」
拓斗に手を取られ走るように車に向かった。