貴方へ XVIII(18)
出かけた先は拓斗が良く来るお店だと言う事だった
そう聞いただけで緊張した
拓斗がお店に入るなり店員さんが深く会釈して「支配人を呼んでまいります」と言った
やっぱり拓斗はどっかの御曹司?・・でも、新人営業マンでもある
拓斗の会社の社長は知っているが苗字は違う
私はどんな顔でいればいいんだろう
「いらっしゃいませ。お久しぶりです、拓斗様」
拓斗様?
「今日はこの女性に必要な物を選びに来たんだ・・自由に回らせてもらうよ」
「かしこまりました。お決まりになりましたらどの店員にでもお声を掛けてください」
「ありがとう」
拓斗は私の手を引いて歩き出した
「びっくりした?」
「したわ・・拓斗は何者?」
「僕の父親がちょっとした会社の会長でね」
「会長?・・拓斗のお父さんが会長って・・・」
「俺は4人兄弟の末っ子で、全員男・・・今は長男が社長で他の2人も結構えらい立場にいる・・年が離れているせいもあるけど可愛がられたというよりほっておかれた口なんだ・・俺は兄さん達みたいに優秀じゃないからおやじの会社には入らないで自由にやらせてもらってる・・言っておくけどこのカードもマンションもおやじの見栄なんだよ」
「じゃあ、私の為に使ったりしない方がいいんじゃないの?」
「大丈夫だよ・・カードは使わない。沙代里の物は自分のお金で買いたいから」
でも、私はこの間候補に挙げた家具が気に入っていたので、それだけでも申し訳ないのに、他の物まで拓斗に甘えてしまっていいのだろうか
「ねえ、拓斗・・・今日は見るだけにしない?」
「遠慮してるんだろ?」
「だって・・」
「大きなものは他の日にしてもいいけど、沙代里の食器やタオルとかはもう今日から必要だよ」
そうか・・そうだよね
「分かりました、よろしくお願いします」
拓斗が私の手をギュっと握った。
そのお店は、家具からスリッパまで何でもそろう5階建てのお店・・と言うか
デパートみたいな感じだけど聞いたら会員制だそうだ。
道理で他のお客さんが少ない訳です。
2人で2時間ほど掛けて色々回って、スリッパ、食器類、パジャマ、タオル、
シャンプーリンスなど・・考えられる限りをカートに入れて最後に拓斗が大き目の花瓶をカートに入れた
「花瓶?」
「うん、帰りに花屋に寄りたいんだ・・2人の部屋だから花位は欲しいと思って」
「だったら、もう少し小さいものを3つ買って欲しいんだけど・・だめ?」
「どうして3つ?」
「玄関とトイレと食卓に少しずつ置きたいの・・昔からの夢だったの」
「今まで出来なかったの?」
「出来なかった・・・だから」
「いいよ、それ位・・沙代里の趣味で決めていいよ」
「嬉しい・・ありがとう」
1輪挿しよりも少しだけ大きな花瓶で形の違う物を3つ選んだ
拓斗が振り向くと手を上げた
すかさず店員さんが来て「お預かりします、1階のロビーでお待ちください」と
カートを持って行った。
エレベーターで1階に下がり、拓斗に着いて行くとちょっとした部屋に入った
白い壁の部屋で、お洒落でフカフカのソファとテーブルがあって、拓斗に促されて座って待っていると店員さんがお茶を運んできた。
一口飲んだ頃に支配人さんがノックをして入って来た。
「拓斗様、本日はありがとうございました。お支払いは今回も同じで宜しいですか」
「うん、そうしてください」
「お荷物の梱包が出来上がっています、お車までお持ちいたします」
「ありがとう」
そう言って車のキーを支配人に渡した。
「ねえ、いつも支払いはどうやってるの?現金で払うのかと思った」
「いつもそんなお金は持ち歩いていないよ・・支払いは自分名義のカード番号をこの店に登録しているんだよ」
「じゃあ、色んな物をいつもここで買うの?」
「1年に1~2回かな・・おやじを納得させる為なんだよ・・自分の息子が安物を使っているというのがいやらしいんだ・・嫌な見栄だなって思ってたけど・俺が沙代里に良い物を使ってほしいと思うのと同じなのかもな」
顔を見合わせて頷きあった。
5分もすると、支配人が「拓斗様、ご用意が出来ました」と伝え鍵を渡された。
車に行くと後部座席に綺麗に梱包され大きな丈夫そうな袋に入って乗せてあった。
「ありがとう」
「ありがとございました・・お気をつけてお帰りください」と
支配人と店員さん2名が深く会釈して見送ってくれた。
走り始めてすぐに「なんだか、くすぐったかったな」と言うと
「なにが?」
「買い物でこんな風に扱われた事なんてないから・・って言うか普通の人は無いから
変な感じと言うか、落ち着かなかったと言うか・・」
「そうなんだ~・・でも、家具はこの間行ったお店で買うし、他の物とか食材なんかは沙代里のお店で買うよ」
「うん、その方が落ち着く」
「俺の立場は会長の息子だけど、普通の営業担当で新人です。これからも宜しくお願いします」
運転しながら頭を下げる拓斗がとっても愛しく思えた
「こちらこそ、貧乏性の私ですが宜しくお願いします」
と言って拓斗に頭を下げた。
笑いながら花屋に向かった。