hanaremon’s blog

小説や詩のブログ

君へ    1

長い時間をかけ、止まない雨に打たれながら、
霧の中を迷い歩き、疲れ切ってもなお歩き続け、出会ったのが「彼女」だった。


結婚して15年の頃の話し、
子供は中学2年と小学5年
2人とも娘で母親とは仲が良い
僕達夫婦は、いつの間にか「夫婦愛」ではなく
「家族愛」にすり替わり、
そしてある日突然、妻は別の部屋で寝るようになった。
それと同時に「夜の営み」も無くなった。
理由は「鼾がうるさい」と言う物だったが
妻の方が余程うるさいので異論を唱えたが無駄だった。
その頃から、色んな決め事やイベントの予定も
僕抜きで決まるようになり、
お弁当や小遣いも妻から渡される事がなくなった。
給料は振り込みで、妻が管理していた
僕は「せめて昼ご飯代は貰いたい」と何度も
頼み込み「1万5千円」を貰うことが出来たが実際は足りていない。
その為、仕事帰りに2時間だけアルバイトをする羽目になった。
妻はいったい僕をなんだと思っているのか?
何も食べなくても生きられるATMとでも
思っているのか?
妻の浮気も疑ってみたし、高額な買い物や貯金の引き出しをしているのではないかと調べてみたりもした。
友人や同僚に相談しても見たが、
「15年も経てばそんな感じだよ」と誰からも言われてしまった。
どの夫婦もそうなのだろうか・・・
僕の両親は僕が知っている限り、ずっと仲が良いし、一緒の寝室だし、趣味も一緒の物もあるし
2人だけで出かけたりもしている。
僕の理想の夫婦象・・と言うより、夫婦とはそう言うものだと思っていた。
だから、妻の異変には驚きと動揺以外なかった。
僕は結婚当初から、ゴミだし、風呂掃除、頼まれた買い物、妻や子供の送り迎え、犬の散歩、大型連休には旅行やドライブなどの家族サービス、誕生日や結婚記念日、クリスマスなどのプレゼントや、お正月やお盆の実家訪問など、欠かしたことはない。
しかし、お小遣いが半分以下になってからはプレゼントも格安の物しか渡せないし、ガソリン代も出してくれないから遠出なども出来なくなった。
原因は妻にあるのに、子供達からは
「パパ、ケチくさい」などと言われ、
妻からは無視され・・
普段から、妻と娘の会話に入ろうとすると、一斉に居なくなる始末。
僕がいったい何をしたというのだ・・・

僕は何ヶ月も悩み続けたが、答えが見つからず、
意を決して妻に本音を聞いてみることにした
子供達が寝た後、妻の今の寝室をノックし返事を待って扉を開けようとした途端
「絶対にしないわよ」と・・・
今思えば夜の営みの事だったようだがその時はそんな事は頭になかった
何のことだ?と思いながら、話がある聞きたいことがあるとだけ扉の隙間から話しかけると
「私にはないけど・・・」
「僕にはあるんだ。解らないんだ君の気持ちが・・・だから聞きたくて・・・」
そう言うと、妻の方が外に出てきた
「解らない?何が?」
「だから・・君の気持ちだよ・・どうしてこんな状態になってしまったのか・・僕のことはもうどうでもいいのか?僕は変わらず君を愛している」
そう言うと、妻は目を潤ませて言った
「気持ち悪い」
その瞬間、扉は閉ざされた・・・
僕の心の扉の閉まる音と共に・・・。

それからの僕は、家族という物の存在が解らなくなったまま、心も口も閉ざし生活をするようになった。
今までやってきた「ゴミ捨て、お風呂掃除、その他諸々」を辞めた。
そして、自分の給料の振込先を変え、生活と学費に必要な金額だけを引き出して渡し、その他は自分で管理した。
妻と娘と名乗る3人からは、散々文句を言われたが知ったことではない。
僕の「世話」と言えることは何一つしないくせに
お金を運んでくるだけありがたいと思って貰いたい。
そこまでするのなら「離婚」した方がいいのではないか?と、悩んでいるときに相談した人に今の状況を伝えると、口をそろえてそう言われた。
考えたらそうなのだが「見捨てる」様な感じがして、自分の中では決定打が打てなかった。
妻と言う立場の女は僕と結婚するまでアルバイトしかしたことのない人間で、生活の為にお金を稼ぐと言う感覚がない・・。
なので、娘達にも母親としてお金の有り難みとか教えるなんて皆無だろう。
だから「お金は父親が持ってくる物」としか思ってないはずだ。
それを考えるとモヤモヤする。
もはや、娘という存在も僕の中では「かわいい」から「うっとしい」存在になってしまっている。
そんな生活が続く中で上の娘は短大に進み、1年後に成人式を迎える時期になった。
妻と名乗る女は「着物くらい買ってあげたい」としおらしく言ってきたが、全く興味がない僕は顔も見ずに「借りればいい、それくらいは出す」と言った。
次の日、会社から帰っていつも通り買ってきたお弁当を食べていると、貸衣装のパンフレットを差し出してきた。
それなりにする物だな~と思いながら、一番安いであろう金額を次の日に渡した。
すると、娘と名乗る女が「髪のセットの為の美容院代も必要」と言ってきた。
職場の女の人に近くの安い美容院を教えて貰って最低限の金額を聞き、娘に渡した。
それから1年後、成人式当日・・・
余程嬉しかったのか、娘と名乗る女は「お父さん、見て見て~~」と僕にまで話しかけてきた
”お父さん”と呼ばれたのはどれ位ぶりだろう・・・
ビックリして思わず「良かったな」と口を開いてしまった
それに驚いたのは、妻と名乗る女だ
目を丸くしながら僕を見て「ありがとう」と言った。
一瞬、気まずい空気が流れたが、娘の喜びようにかき消された。
こんなに喜ぶなら、もう少し出してやれば良かったかな?と思ってしまう程だった。
下の娘は、妙な顔をしながら妻と名乗る女を見つめていた。

その日を境に、娘と名乗る上の子の態度が変わった・・。
妻と名乗る女に「お父さんの分のお弁当も作ってあげればいいのに・・」と言ったかと思えば
「お父さん・・昔みたいにドライブ行こうよ」と話しかけてきたりもした。
しかし、この何年間もの間、居ない人間のように扱われてきた僕にはどう答えたらいいのか解らなかった。
急にそんな風にされても、戸惑うだけでどうしようもない。
妻と名乗る女も戸惑っている様子だ。
上の娘と名乗る女が、何故急に変わったのか・・
理解に苦しみながら、それまでの生活を続けた。
妻と名乗る女も、今まで通りだった。
ただ、僕の中で「希望」と言う言葉が薄っすらと見え始めた気がした。