hanaremon’s blog

小説や詩のブログ

君へ  10

僕の職場での立場は「営業部」の部長だ 普通に営業もするが、1日の半分は相談事を引き受けている いわゆる会社での裏の顔は「コンプライアンス部」の部長でもある 会社の社長とは幼馴染みで、表立ってコンプライアンス部を立ち上げると 相談に来た社員達が…

貴方へ Ⅹ

しばらく止まらなかった大粒の涙かやっと小粒になった 彼の手が私の頬を包んで見つめて言った 「泣き顔も可愛い」 「もう~バカ~」 私は笑いながらまた泣いた 人前でこんなに泣いたのは初めてなのに恥ずかしくなかった 彼の前ならどんな自分も安心して見せ…

「約束」

それは不器用で引っ込み思案な女の子の 楽しかった水色に輝く大切な記憶 雨上がりの虹色のしずくが 昼下がりの優しい風に揺れていた そんな水溜りの残る公園で 1人で何度頑張っても上手く飛ばない紙ヒコウキを 両手でそっと拾い上げ 空高く飛ばしてくれた見…

「罰」

今日、友人の「死」を知らされた もう1か月前の事らしい 引っ越しの連絡もしてなかった 年賀状でやっと新しい住所と携帯番号を知らせたのだ 必ずまた会えると当たり前に思っていた それなのに、どうしてだ 言葉に詰まる僕に電話の相手は 「誰にも解らない事…

君へ  9

妻に最後通告をしてから1週間が経った まだ何の連絡もないが彼と色々相談でもしているのだろう そう思ってこちらからも連絡は避けていた 今日は日曜日 少し遅く起きて朝食をどうしよかと冷蔵庫を開けたが 昨日までの忙しさで買い物をしていなかったのに気が…

「誓い」

南向きで陽当たりの良い寝室 部屋いっぱいに広げられた工具箱や部品 ベットの上に小さなテーブルを持ってきて 一心にラジコンカーを組み立てている彼の その姿はまるで少年の様に私の目には映る 出会った頃とは見違えるほど痩せた体で 無邪気な笑顔を私に見…

貴方へ Ⅸ

ホテルを出て歩きながら、聞きたい事や確かめたい事が沢山あって 何から切り出せばいいのか考えていた 彼が向かった先は駅前にある「レンタカー」のお店 そこで彼の名前で車を借りて出かける事になった 車の中ならなおさら聞きやすいが、なかなか言葉が出て…

「何もしない一日」

私がまだ小さかった昔 日曜の朝に、空が気持ちよく晴れ渡ると コテージの窓を開け放し 暖かな陽の光の中 目を閉じて長い間そこにいた母 いつしかゆっくりと「お茶」の支度をして 大切にしているイギリスのカップで いつもと香りの違う紅茶を飲みながら 古い…

「詩とメルヘン」知ってますか?

そう言っても、もう2003年に閉刊してしまっています 30年間の幕を閉じました。 発行は「サンリオ」 責任編集者はアンパンマンで良く知られている「やなせたかし先生」でした 私が知ったのは閉刊する半年前で、とても残念でした この本は「オーディショ…

君へ  8

妻の彼氏と言うべき男性が出て行ってから ひとまず妻の携帯にメールを出してみた 彼が来た事、とても心配していた事、近い内に出て行ってほしい事 既読にはなったが返事はない 僕の浮気が誤解だったとしてもこの何年間の家族の僕への仕打ちに対して 気持ちが…

貴方へ  Ⅷ

エレベーターを降り部屋に歩こうとした 歩こうとしたのに足が前に出ない 早く部屋に入らなければ彼の気持ちを無にしてしまう 私だって家出をしてから2日しかたっていない 離婚の為の1週間のはずなのに何かあってはいけないんだ それに私と彼は今日初めて会っ…

君へ  7

自宅の前で立ち止まって後ろに下がりながら家を眺めた この家も結婚が決まって2人で考えた末に決めた家だ それは覚えている でも、その後からの事を思い出せない 僕は本当に記憶喪失になっているのだろうか? 毎日お弁当を食べる生活も買い忘れたという理由…

貴方へ  Ⅶ

少し気まずい思いでお店まで歩いた 1人で食事に入るのは今度で2度目だ まだまだドキドキしながらだが、そのうちに慣れるだろう 引き戸を開けて中に入ると昭和的な定食屋さんだった ご飯やお味噌汁、小鉢に入った和え物や酢の物、アジフライやらサラダやら・…

君へ 6

人の記憶はあやふやな物だ 良い事は忘れるのに、悪い事はいつになったら忘れられるのだろう 歩きながらつくづく思った 自分の中の家族の思い出は「家庭内別居」が始まってからの物ばかりだ 娘達が小さかった頃の思い出までも打ち消されている 希望が見えた気…

貴方へ Ⅵ

2日目は美容院に行こうと決めた 折角、仕事もお休みしているのだからのんびりするだけでは勿体ない 今まで出来なかった「自分磨き」をしようと思ったのだ 結婚してから何年もご無沙汰しているのでどのお店が良いのか分からない 思い立ってこの間会った友達…

君へ 5

部屋に入るといつも通りの行動 カバンを机の上に置き、着替えながら脱いだスーツなどをハンガーにかける そして、パソコンを開く・・・ 昨日までの日記を読み返した 大半が仕事の事だが、家庭内別居の頃から時々は家族への気持ちを書いている 殆どは疑問形だ…

貴方へ Ⅴ

久しぶりのお酒にほろ酔いで気分が良くなり そのまま着替えずに寝てしまった テレビも電気も点けっぱなしで・・ 目が覚めたのは朝の6時 「あっ、寝坊した・・お弁当!」と思い飛び起きた 少々パニクッたが、ホテルの部屋だと分ってホッとした ホテルの朝ご…

君へ 4

「もう、止めてくれ」 出来るだけ優しい言い方をしたつもりだけど 内容は優しくないかな・・ 「別れるんだろ・・罪滅ぼしのつもりならもう十分だよ 美味しかった、ありがとう」 下を向いていた「妻で無くなる女」が僕の顔を見上げた 不思議そうな顔で・・・ …

貴方へ Ⅳ

ビジネスホテル 家から車で1時間くらいの駅近くに見つけ、1週間の滞在の予約をした 身の回りの物は殆ど車に積んできた ものの見事に簡単に纏められた荷物は段ボールが2つ・・・後部座席に乗せた 着替えと化粧品、普段持ち歩いているバック それだけを持っ…

君へ 3

1週間程して、妻と名乗る女が夜中に「離婚届」を封筒に入れて持ってきた 今度は部屋の前で渡された 「すぐに書くから、ちょっと待ってて」と言うと 「今すぐじゃなくてもいい・・・でも、書いて持っていてほしい」 「分かった、じゃぁ必要になったら受け取…

貴方へ Ⅲ

朝、いつも通りに朝食とお弁当を作って仕事に出かけた 違っていたのは自分のお弁当は作らなかった事だけ・・・ そして、仕事帰りに市役所によって「離婚届」を貰って来た 家と反対方向に車を走らせ、行きたいと思っていたラーメン屋に行った 食べる物は何で…

君へ 2

娘が成人式を終えてからどのくらい経った頃だろう 妻と名乗る女が「話があります」と夜中に僕の部屋にやってきた 家庭内別居が始まって初めての事だ 僕は「ではリビングで・・・」と言うと 娘たちに聞かれたくない話だから部屋の中で・・と言った 仕方なく部…

貴方へ Ⅱ

家に帰り着き、真っ先にしたのは自分の荷物の確認 今更ですが、自分だけの物がこんなに少なかったのかと驚きました 季節毎に枚数を数えると冬の上着が5枚、ジーパンとスカートが合わせて4枚 夏物も似たような物・・合いの服も下着も少ない お化粧品も小さな…

貴方へ

長い時間をかけ、止まない雨に打たれながら、霧の中を迷い歩き、疲れ切ってもなお歩き続け、出会ったのが「彼」でした。 私は、昔から1人が好き1人の時間を自由に過ごすのが好きだから、就職して直ぐに1人暮らしを始めた。しかし、人生の流れの中でその希…

君へ    1

長い時間をかけ、止まない雨に打たれながら、霧の中を迷い歩き、疲れ切ってもなお歩き続け、出会ったのが「彼女」だった。 結婚して15年の頃の話し、子供は中学2年と小学5年2人とも娘で母親とは仲が良い僕達夫婦は、いつの間にか「夫婦愛」ではなく「家…